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「せ、泉里さ――」
しかし舞衣の言葉は続かなかった。
身体がふわりと浮き上がり、一気に視線が高くなる。
「えっ、あっ……!」
背とひざの下が力強い腕に支えられ、抱き上げられているのだと気づいた瞬間、舞衣は驚きを通り越して頭が真っ白になった。
かあっと頬が熱くなる。
今起こっていることが、信じられない。
だって、今、わたし……
「申し訳ありません、父上。少し席を外させて頂きます」
早口にそう断って、泉里は舞衣を横抱きにしたまま縁側に出た。
そこから庭を突っ切ると、あっという間に、舞衣は透き通った水を湛える庭池へと連れて来られていた。
身体を下ろされたかと思うと、泉里は急いた口調で舞衣に言ってくる。
「湯がかかっただろう? 早く冷やせ!」
「は、はい」
言われるがままに、舞衣はあわてて腕を庭池に浸した。
冷水に触れたことで、ただれるような痛みが少しずつ弱まっていく。
(冷たくて、気持ちがいい)
無意識のうちに、舞衣はほっと安堵の息をついていた。
しばらくそうした後で、舞衣は腕を確認した。
すぐに冷やすことができたからか、先ほどよりも痛みはかなり収まっている。
赤みとしびれは少し残ったが、水ぶくれにもなっておらず、数日もすれば完全に治るだろう。
舞衣を心配して、泉里が声をかけてくる。
「大丈夫か? 熱かっただろう。痛みは?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます。もうそれほど痛くないので、すぐ治ると思います。あの……泉里さま。ご迷惑をおかけしてしまって、本当に申し訳ありませんでした――」
深々と頭を下げる。
じわじわと胸の底から込み上げてきたのは――罪悪感だった。
(わたしなんかが、邪魔をしてしまった。せっかく、楽しそうにお話しされていたのに……)
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