635人が本棚に入れています
本棚に追加
泉里にとって、家族との再会は三年ぶりだった。
にもかかわらず、舞衣は自分の不注意で、家族水入らずの時間を台なしにしてしまったのだ。
頭を下げたまま、舞衣は唇をかみしめた。
謝るくらいでは、決して許されない。
……きっと泉里も、舞衣を心配する以上に、失望していたのだろう。
その証拠に、いつまで経っても、泉里からは注意や叱咤の言葉一つ、返ってこなかった。
こわごわと顔を上げてみれば――
(あ――……)
もうそこに、泉里はいなかった。
あたりを見回せば、庭の向こうに、急ぎ足で去っていく泉里の後ろ姿が見えた。
(呆れられてしまったんだわ)
奈落に落ちたような心地だった。
(……わたし、何をやってるんだろう)
ぎゅっと目をつむり、震える息を吐き出す。
……けれど、泉里が舞衣に呆れていなくなったのではないことは、すぐに明らかになる。
泉里が再び姿を見せたのは、仕事に戻らないといけないと思い、舞衣が立ち上がろうとした時のことだった。
その手には、塗り薬の入った小さな瓶があった。
「待たせてしまって悪かったな。腕を見せてくれるか」
「……え?」
少しだけ赤みの残る腕をそっと取られ、薬を塗られる。
それはまるで、繊細な花や宝石でも扱うような触れ方だった。
驚いて顔を上げれば、泉里は懐から白いハンカチーフを取り出しているところだった。
舞衣が止める暇もなく、泉里はその上品な刺繍で縁取られたきれいなハンカチーフで、舞衣のやけどをおおっていく。
最初のコメントを投稿しよう!