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「なんだ、化け物でも見たような顔をして」
苦笑され、舞衣はかあっと顔を赤くした。
「何をしていたんだ?」
「こ、米とぎを……」
我ながら、蚊の鳴くような声だ、と舞衣は恥ずかしくなった。
「米とぎ? こんなに朝早くから一人でか?」
「あ……、えっと……その。わ、わたし、のろまで、仕事ができなくて……役立たずでみんなに、迷惑をかけてしまっているので。その分、早く起きなくちゃ、と……」
故郷の山村にいた頃から、どんくさい、のろま、役立たずと毎日言われていた。
帝都に来てからも、それは変わらなかった。
他の女中を怒らせたことは数知れない。
『どんっくさいわねえ、あんたって、いるだけで邪魔なのよ!』
『はあ? この愚図、何言ってるか全然聞こえないんだけど』
『ほんと、仕事ができないくせに、お給金だけはしっかりもらって。あんたみたいな子、給料泥棒っていうのよ。いい身分よねえ、仕事しないでお金がもらえるなんて』
……頑張らなくちゃ。
わたしのせいで、みんなに迷惑がかからないように。
わたしは愚図でのろまだから、その分、みんなよりもたくさん頑張らないと。
「お前が、のろまで仕事ができない?」
「……え?」
泉里がけげんそうに首を傾げる。
「厨房のすぐ外に、水の入った桶がいくつもあった。あれは誰が汲んでくれたんだ?」
「あ……わ、わたし、です。さっき……井戸から汲みました」
「その山盛りのじゃがいもやにんじんは?」
「そ……それも、です」
はあ、とため息が降ってきた。
(あ……)
呆れられたんだ、と思った。
わたしがあんまり仕事ができないから……。
『給料泥棒』
『いるだけで目障りで邪魔な存在』
他の女中達から向けられた言葉が、耳の奥に響く。
(……追い出されてしまうかもしれない)
当たり前だ。
みんなに迷惑をかけてばかりのわたしなんて、追い出されるのが当然だ。
こんなに仕事のできないわたしなんて、いない方がいいに決まっているのだから……
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