1.初恋

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「なんだ、化け物でも見たような顔をして」  苦笑され、舞衣はかあっと顔を赤くした。   「何をしていたんだ?」 「こ、米とぎを……」  我ながら、蚊の鳴くような声だ、と舞衣は恥ずかしくなった。   「米とぎ? こんなに朝早くから一人でか?」 「あ……、えっと……その。わ、わたし、のろまで、仕事ができなくて……役立たずでみんなに、迷惑をかけてしまっているので。その分、早く起きなくちゃ、と……」  故郷の山村にいた頃から、どんくさい、のろま、役立たずと毎日言われていた。  帝都に来てからも、それは変わらなかった。  他の女中を怒らせたことは数知れない。 『どんっくさいわねえ、あんたって、いるだけで邪魔なのよ!』 『はあ? この愚図、何言ってるか全然聞こえないんだけど』 『ほんと、仕事ができないくせに、お給金だけはしっかりもらって。あんたみたいな子、給料泥棒っていうのよ。いい身分よねえ、仕事しないでお金がもらえるなんて』  ……頑張らなくちゃ。  わたしのせいで、みんなに迷惑がかからないように。  わたしは愚図でのろまだから、その分、みんなよりもたくさん頑張らないと。 「お前が、のろまで仕事ができない?」 「……え?」  泉里がけげんそうに首を傾げる。 「厨房のすぐ外に、水の入った桶がいくつもあった。あれは誰が汲んでくれたんだ?」 「あ……わ、わたし、です。さっき……井戸から汲みました」 「その山盛りのじゃがいもやにんじんは?」 「そ……それも、です」  はあ、とため息が降ってきた。 (あ……)  呆れられたんだ、と思った。  わたしがあんまり仕事ができないから……。 『給料泥棒』 『いるだけで目障りで邪魔な存在』  他の女中達から向けられた言葉が、耳の奥に響く。 (……追い出されてしまうかもしれない)  当たり前だ。  みんなに迷惑をかけてばかりのわたしなんて、追い出されるのが当然だ。  こんなに仕事のできないわたしなんて、いない方がいいに決まっているのだから……
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