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(聞かれてしまったかしら……?)
聞かれていなければいいと思ったが、こわごわと顔を上げれば、泉里は少し驚いたような表情をしていた。けれどすぐに、舞衣に優しく微笑みかけてくる。
それから、ぽん、と頭に手を置かれた。
あの日、泣きじゃくっていた舞衣にしてくれた時と、同じ。
それは、優しくて温かい手だった。
「忘れるはずないだろう。帝都の邸に帰ったら、すぐにお前の顔を見たいと思っていた。だが、もう三年も経っているからな。あの時のことは忘れられてしまっているのではないかとも思っていたから――お前も覚えていてくれたことが、とても嬉しいよ」
「……!」
心臓が止まるかと思った。
ゆっくりと、泉里の言葉の意味を理解する。
舞衣だけではなかった。
泉里も、舞衣と同じように、再会を望んでいてくれた。
(うそ……)
こんなに嬉しくて幸せなことが、あっていいのだろうか。
胸の裡が、温かくてふわふわした感情でいっぱいになって、どうにかなってしまいそうだった。
その気持ちは、心の中だけではおさえきれない。
思わず花開くように微笑んで、舞衣は口にせずにはいられなかった。
「……わたしも、嬉しいです。覚えていてくださって……また、泉里さまにお会いできて。ずっと、ずっと、お待ちしていましたから」
ほのかに甘い香のする春風が、桜の花びらとともに吹き寄せてくる。
二人を囲むようにして咲く花々が、風を受けてふんわりと揺れていた。
「そうか。俺もずっと、お前に会いたかった。待っていてくれてありがとう――ただいま、舞衣」
「はい。おかえりなさいませ、泉里さま」
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