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悲しくなって、じわり、と涙がにじんだ。
(だめ……。泣いてしまったら、だめ……)
泣く資格なんてないのに。
必死に涙をこらえようと、うつむいて目をとじる。
ただでさえ役立たずで迷惑をかけているのに、泣いたらもっと困らせてしまう。
「……役立たず、か。誰がお前にそんなことを言ったんだ?」
「……え?」
ゆっくりと目を開けた。
そこには、舞衣の背丈に合わせて、かがみ込む泉里の姿があった。
まばたきすると、ほろりと涙がこぼれ落ちる。
……絶対に、気づかれてしまったはずだった。
なのに、泉里は舞衣の涙の理由を聞いてはこなかった。
彼はまっすぐに舞衣を見つめて、舞衣が答えるのを待っていてくれている。
「……昔、から……なんです。昔から……みんなに、言われてきたから。だから、わたし……みんなよりできないから、その分、頑張らなくちゃって……」
こらえることができなかった。
泣いてはいけない。
早く泣き止まないと。
そう思うほどに、涙はあふれてきてしまう。
そんな自分が嫌で、悲しくて、嗚咽が込み上げるのをおさえられない。
(泉里さまは、きっと困っていらっしゃる。こんな私なんて、ここからいなくなってしまいたい……消えてしまいたい……)
「……ご、ごめんなさっ……、あの、大丈夫、です。わ、わたし……だい、じょうぶですから……っ」
途中、しゃくりあげながらも、やっとの思いで口にして、泉里の前から離れようとした時だった。
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