1.初恋

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(わたし……何を舞い上がっていたのかしら)  居たたまれなさに、舞衣は顔をうつむかせた。  無意識のうちに、お仕着せの布地をきゅっと握りしめる。  早く、この部屋から出て行かなくてはならない。  これ以上はもう、泉里の邪魔になってはいけないから――。  舞衣はもう一度泉里に一礼し、足早に扉へと向かった。 (きっと、泉里さまとお話しできるのは、これが最後)  顔を伏せたまま、あふれそうになる想いを込めて、お礼を口にする。 「あの、本当に、本当に……ありがとうございました。わたし、今日のこと、ずっと忘れません。では、失礼しま――」 「舞衣!」  はっとして、舞衣は顔を上げた。  一瞬、だった。  その先にあった真摯(しんし)な眼差しに、舞衣はその場にからめ取られたように動けなくなる。 「……待っていてくれるか」  遅まきながらに、舞衣は泉里に腕をつかまれていることに気がついた。  袖の布を通して、泉里の手の温もりを感じる。  触れられているだけで、その温もりに、どうしようもなく胸がうずいてならなかった。 「俺はこれからの三年を英国で過ごし、この邸に戻ってくることはできない。だが、お前がここで待っていてくれていると思えば、どんなことでも頑張れるような、そんな気がするんだ。だから……お前に、待っていてほしいんだ」  迷いなど、あるはずもなかった。 「……は、い」  舞衣はありったけの心を込め、微笑んだ。 「はい。お待ちしています。わたし、泉里さまのこと、ずっと――」  そうして、舞衣は英国へと発つ泉里を見送った。  舞衣、十四才。  初めて胸に兆した、温かく大切な想いの名を知る時は、まだ遠く――
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