6.縁談

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「泉里さま! 早く、怪我の手当て、を……――」  確実に身動きを取れないようにするため、気を失った千沙の手足を(しば)り終えた泉里に、舞衣は急いで声をかける。  けれど、正面から強く抱きしめられたせいで、言葉は途中で止められてしまった。 「あ……」  ――温かい、と思った。  そのぬくもりに、深い、深いため息がこぼれ出てしまう。  何度も、何度も舞衣を助け、勇気づけてくれた腕。  けれど舞衣のすべてを包み込むように背に回された手は、小刻みに震えていた。 「……怪我、は」 「そんなことはどうだって構わない。……なぜ、あんな無茶をした」 「え……?」 「答えろ、舞衣。なぜあんな無謀(むぼう)なことをして、お前自身が怪我をしてまで、灘乃千沙を振り切ろうとした? 少しでも何かが失敗していたら、お前は死ぬかもしれなかったんだぞ……!」  身を切るような泉里の叫びに、心の奥底が大きく揺るがされる。  これほどまでに、全身で怒っている泉里の姿を、舞衣は見たことがなかった。  けれど、泉里が(ほとばし)らせている感情は、怒りだけではなかった。  単なる怒りだけではない――それは、舞衣を死なせることになってしまったかもしれないという、純然たる恐怖。 (泉里さまが……わたしを、こんなに心配してくださっていた)  ……けれど。  それは舞衣だって、まったく同じだった。  心配をかけて申し訳ありませんでした、と。  本当は、謝るべきだったのだろう。  なのに、実際に口をついて出てきた言葉は、謝罪にはまったくほど遠いものだった。
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