632人が本棚に入れています
本棚に追加
「そ、んなの……、わたしだって……、わたしだって、恐かったんです……! わたしの……せいで、泉里さまが死んでしまったらと思ったら……怖くて、恐ろしくて……!」
耳元で、泉里が息をのむ気配がする。
ああ、きっと。
お礼も謝罪も何もかも忘れ、衝動のままに感情を吐露する舞衣に、きっと泉里は呆れている。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
「方法があるんだったら……何でもいい、怪我したっていい。わたしのことなんか、どうなったっていい……! それよりも、あなたが傷つけられていくのを見ている方が、ずっと、ずっと、つらかったんです……! だから……助けられるのを、じっと待っていられるわけないではありませんか――」
その瞬間、ぐっと頭をつかまれ、顔を泉里の胸に押しつけられる。
(え……?)
それ以上は言うな――と。
言外に伝えるように。
優しくあやすように、泉里は大きな手で舞衣の頭を幾度も撫でてくる。
もう、泉里は舞衣に怒りをぶつけることはなかった。
少しかすれているけれど、これまでに聞いたこともないくらいに優しく柔らかな声で、泉里は言った。
「……もういい、わかった。お前の気持ちはもう、充分にわかったから。大声を上げてしまって、すまなかった」
「…………っ」
……どうして。
必死に引き結んでいた唇から嗚咽がこぼれる。
我慢できない。
どうして、泉里はこんなにも、舞衣に優しいのだろう。
どうして、こんなにも愛おしむように触れてくれるのだろう……?
もう、耐えることはできなかった。
くしゃくしゃにつぶれてしまいそうなほどに、胸が痛くて痛くてたまらない。
舞衣は嗚咽を飲み込みながら手を伸ばして、そっと泉里の胸を押し返した。
最初のコメントを投稿しよう!