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わたし
人は嘘をつく。それは本能なのかもしれない。最初から嘘なんてつかなければいいのに、と思っても人は嘘をついてしまう。倫理に反すると分かっていても、人助けだと言って自分の都合の良いように解釈して逃げて、また嘘をつく。
初めてこの世で嘘をついた人に言ってやりたい。何で嘘をついたんだって。元々、人間が進化なんてしなければ嘘なんてものも存在しなかったのではないだろうか。原始人のまま、言語を話さず「ウホウホ」と言って会話をしていれば、そっちの方が幸せだった気がする。
嘘は人を悲しませる。嘘をつかれたことを知った人は、尚更。でもきっと、嘘をついている人が一番つらい。
「嘘は嫌いだ」
わたしは毒を吐き捨てるようにそう呟くと、まだ隣で眠っている貴方を置いて荷物を纏め始める。同棲を始めてはや一年。結婚を考えていた自分が馬鹿のようだ。嘘をつく人とは、一緒になれない。それは誰もがそう思うはずだ。性別や人種関係なく、この世に生きている全員が嘘つきは嫌いだ。
でも知ってる。わたしの存在が貴方に嘘をつかせているということを、わたしは知っている。だからわたしは貴方から離れるんだ。
スーツケースに今必要な荷物だけを纏めて、貴方に「残りの荷物はまた今度取りに来ます」と置き手紙を書くと、机の上に置いた。それから眠っている貴方を見て、優しく微笑む。
「さよなら」
貴方の髪を触り、頬を触り、そして最後は唇に触れた。そっとキスを落として、また微笑む。最後の悪あがき。
「愛してました」
そう、言葉を残して貴方が目を覚ます前に家を出る。スーツケースを転がす音が妙に五月蠅く聞こえた。でもこれも、呪いが解けた証。今まで貴方に包まれていたわたしが、今むき出しになったことが証明された。
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