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ぼく
君がバタンとドアを閉めた時、ぼくは目を覚ましていた。寝ているという嘘を君について、ぼくはゆっくりと目を開けるとぼんやりと天井を見た。
『愛してました』
その言葉が心に刺さって、脳裏から離れなかった。そして最後の口づけも。
ぼくは体をゆっくり起こすと、君が去っていったドアをじっと眺める。目を瞑っている時に聞こえた、カチャンッという音は君がポストに鍵を入れた証拠だろう。それを確かめるようにぼくはポストに手を突っ込むと、案の定君が捨てていった鍵が入っている。
「だよなぁ……」
ぼそりと呟くと、鼻を啜って鍵を握りしめた。それから机の上に置いてある置き手紙が目に入る。ぼくはそれを持ってメッセージを読むと、そっと机の上に置いた。
追わないのは、ぼくにとって必然だった。君が嫌いだからとか、そういう訳じゃない。ぼくは君のことを愛していたし、今でも君が出て行ったことに泣きそうだ。でもこれは全部、ぼくが決めたこと。君に嘘をつくことも、ぼくの運命からしたら必然だった。我ながら分かりやすい嘘だったと思うけれど、それでも別に良い。
ぼくは鍵を机の上に置くと、ベッドメイキングをして鏡の前に向かう。酷い顔だ。やつれている。ぼくはフッと笑うと、顔を洗った。洗ったお陰で、少しは良くなっている。でもまだ、酷い顔なのに変わりはなかった。
君に隠れて置いておいた薬箱から何錠か取り出すと、口に放り込んだ。それから水を飲むと、ごくりと流し込む。
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