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わたしは貴方を見ると、貴方がニコッと微笑んでいた。その微笑みに嘘をつかれているような気がして、わたしは貴方から視線を外す。弱いくせに、強く装っている。
「病名は?」
「教えないとダメ?」
「教えたくないならいい」
わたしはそう言うと、てきぱきと荷物を詰め込んでいった。それを見て、貴方が「優しいね」と溢す。優しい、なんてそんな訳ない。わたしは酷い女だ。わたしのせいで、貴方に嘘をつかせるようにしてしまったのだから。
「愛してました」
貴方はわたしにそう言うと、少しだけ貴方の瞳が揺らぐ。貴方の瞳は潤んでいて、それを隠すように眉の間を人差し指で掻いた。
「嘘つき」
わたしはそう言うと、貴方が「うん、知ってる」と言った。結局、最後の最後まで嘘をつかれてしまった。
「わたしが、嘘をつかせてたんだね」
わたしはそう言うと、貴方がそれを聞いて辛そうな顔を浮かべた。それからかぶりを振ると「違う」と言う。
「嘘つき……」
わたしはそう言うと、貴方が苦笑いを浮かべる。でもどんなにそう言っても、貴方はまた嘘をつく。だからわたしも嘘をつく。
「愛してました」
そう言うと、貴方が二コリと笑った。荷物を纏め終え、立ち上がると逃げるように玄関へと向かう。貴方はわたしの後を追って、玄関前まで来るとわたしをいつものように優しい笑みで見つめた。
「さよなら」
わたしはそう言うと、貴方は少し傷ついたような顔をして、それから「さよなら」と言う。少し見つめ合って、ドアノブに手を掛けると貴方がそれを阻んだ。わたしはビクッとして振り返ると、貴方の顔が近づく。そっと唇に触れた熱が、わたしの時間を止め、それから自然と瞼を下ろさせた。
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