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貴方の顔がわたしから離れ、わたしも瞼を開けると貴方を見る。
「ごめん、最後に」
「ううん……」
わたしは首を横に振って、今度こそドアノブを捻ると外に出た。「さよなら」とまた言って、ドアを閉める。
ドアが閉まって、カチャリと鍵がかかる音が聞こえた。それを聞いて、わたしはフッと笑みを零す。それから視界がぼやけた。
「貴方が嘘をつかなくても生きていけますようにと、何回も何千回も願ってる」
わたしは貴方に聞こえるような声量でそう言うと、スーツケースを転がし始める。
コンッと音が聞こえて、足を止めた。コンッ、とドアの奥から聞こえてくる。5回、コンコンコンコンコンッとわたしにメッセージを送るよう。別れの挨拶じゃない。貴方の本音のように聞こえた。わたしの都合の良い解釈だろうか。そうじゃないと信じたい。どこかの歌詞のようなそんなメッセージに、わたしは堪えていた涙を溢すと、その場にしゃがみ込んだ。
もうわたしたちは顔を合わせて真実を語り合えない。だからこその、ドア越しのメッセージ。
「愛してる……さよなら」
わたしはもう一度そう言うと、スーツケースを転がし始める。早く貴方から離れるために、段々と歩くスピードを早めて、ついには走り出した。ヒールを履いているから走りにくい。途中、転びそうにもなった。でも、それでも前に前にと貴方から離れるように、この気持ちから離れるように走る。
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