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私が捕まってこの埠頭の誰もいない倉庫に連れてこられてからもうすでに十時間が経とうとしていた。、ドラム缶に体を縄で縛りつけられ、覆面をした数人の男どもに酷い暴行を受け続けている。
もう駄目だ。意識がもたない。永遠と続くこの悪夢に終わりはあるのだろか。
「払う気になったか?」
ずっと私の前で椅子に足を組んで座っている高そうなスーツに身を包んだ男が不意に口を開いた。
「払ってしまえよ。そうしたら楽になるのだから」
「絶対…払うもんか…」
苦しい呼吸の中、途切れ途切れに相手に言葉をぶつけた。
「お前は自分の置かれた立場が一つも分かっていないようだな」
男は立ち上がって、私の顎を乱暴に掴むと、
「お前の大事な人は、俺が預かってるんだぜ…」
舌なめずりをして、口の端を吊り上げた。
その言葉を聞いて私は戦慄した。その瞬間、私の奥底で眠っていた危機感が目を覚ました。
「おい! 妻にいったい何をした!」
「安心しろ。今のところお前の妻には何もしちゃいね~さ。だがお前がこのまま金を払わなければ、ちょっと今の状況とは変わるかもしれないがな」
「妻にいったい何をする気だ!」
「だからそれはお前次第だと言っているんだよ」
男の不気味な笑みが妻はどうなっても知らないぞと訴えていた。男の口の隙間から漏れ出る笑いがそっと耳の中に入ってくると急に体の震えがおさまらなくなった。
「頼む! …もう少しだけ時間をくれ…」
「いつまで?」
そう言うと、男が目を鋭くした。
「今週中には絶対払う! だからもう少しだけ時間を!」
「ほ~…。一つ聞かしてくれよ。俺はお前の言葉を信じてもいいのか?」
「え?」
「このまま逃げて警察に垂れ込もうとしているんじゃないだろうな?」
私はそこで唾を飲み込んだ。
「なぜそこですぐに何も言わない?」
「いやそれは…」
「つまり図星だったというわけということだな」
「違う! それはあなたの考えすぎだ! 私はちゃんと金を払う!」
男は顎を掴んでいた手を放し、私の前からゆっくり距離をとっていった。
「やれ…」
男がそう言うと、男の指示を待っていた、覆面の男たちがバッドや鉄パイプを持って私に迫ってきた。
「そんな! 金はちゃんと払う! だから見逃してくれ! 私は嘘は言っていない!」
「信用できないな…」
「どうしてそんなことが言えるのだ!」
「お前のその顔だよ」
「私の顔?」
「金を払うと言ってからのお前の顔がずっと変にニヤついていたんだよ」
「そんな私は…」
「安心しな。お前が死んだあとお前の妻も後を追わせてやるから」
男は少しだけ顔をこちらに向け、ニヤっと笑った…。
「そんな待ってくれえええええええ!」
私が最後に見た光景は覆面の男たちが手にしているものを振りあげて、振り下ろした瞬間だった。
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