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夢と現実の狭間にいるような。
どこか感覚がおぼつかない世界で、ただただ心地良さに揺られて漂っていた私は、気がつけば季生くんの膝の上で、いつの間にかバスローブにくるまれて、ドライヤーを当てられていた。
「…きお、くん」
「ん?」
見上げると季生くんは私の頬を撫でて、ドライヤーを傍らに置くと、ペットボトルの水を口に含んで私に飲ませてくれた。
程よく冷たくて。潤う。美味しい。
為されるがまま。無心に飲み込む。沁み渡っていく。
何も、考える力が残っていない。
ただ、なんか、泣きそう。
「水分取っとけ。ちょっと無理させたかも」
季生くんの綺麗な顔が間近に迫って、頭を撫でられる。
その温もりに擦り寄ると、季生くんは少し笑ってこめかみにキスをしてくれた。
殻から出たひな鳥が最初に目にしたものに絶対的な愛情を示すように、私を殻から連れ出そうとしてくれる季生くんに感じる、絶対的な信頼。愛しさ。堪え切れない。溢れ出してくる形容しがたい気持ち。苦しいくらいの。もしかしたら、これを幸せと呼ぶのかも。
「…季生くん、ありがとう」
そんな言葉じゃ足りないけど、他に見つからない。
「…まだ最後までやってねえし」
ぶっきらぼうに呟いて、季生くんは再びドライヤーのスイッチを入れた。照れているような気もしたけど、風の音と髪を撫でる優しい指先に阻まれて、確かめることは出来なかった。
「め、…めちゃくちゃ美味しいっ!!」
私の髪を乾かし終わった季生くんが、どこからともなく煮込まれたキャベツと玉ねぎの甘い匂いがするポトフを持ってきてくれた。人参、じゃがいも、ブロッコリー、セロリに蓮根、…色とりどりの野菜が柔らかく煮込まれている。味も匂いも舌触りも優しくて、お腹が歓喜に震える。
「すごい、季生くんが作ったの!?」
「…俺はお前と違って何でもできる」
帰宅したら出迎えてくれて、お風呂もご飯も揃っている。しかも美味しい。なんというハイスペック。セラピー彼氏、最高かっ
「一生一緒にいて欲しい」
欲望に忠実な言葉が口を突いて出てしまった。
「ばーか」
一瞬わずかに固まったように見えた季生くんに、思いっきり頬を摘ままれた。
「痛い、痛いよ、季生くんっ」
「夢みたいなこと言ってないで、食ったら寝な。片付けしといてやるから」
そう言えば。
心なしか部屋が片付いている気がする。お風呂も洗面台も綺麗だった気がする。待てよ、もしかして、溜めてた洗濯物も綺麗になくなってなかったか。
カップ焼きそばしかなかったキッチンから熱々ポトフが出てくるし、水回りのアメニティもいい感じになってるし、枯れ腐った私の家が季生くん効果で潤いに満ちている。
「季生くん、有能すぎる、…」
「当たり前だろ」
不敵に笑った季生くんに抱き上げられた。
「わ、…っ」
「歯磨け。添い寝してやるから」
さっきもそうだったけど、細身に見えるのに季生くんは私を軽々と持ち上げる。天使みたいに綺麗な顔をしているけど、やっぱり男の子なんだなあ。
ベッドがふわふわしている。お日さまの匂いと、若葉みたいに爽やかな季生くんの匂いに包まれる。
「季生くん、…」
こんな。至れり尽くせりの生活、ダメだ。手放せなくなる。抜け出せなくなる。
頭のどこかで警鐘が鳴ってるのに、眠気に揺られて目が開かない。
「…、すき」
こんな簡単に溺れてしまったら、一人で生きていけなくなってしまう。
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