one more. 2

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手のひらで頬を包まれる。唇に優しい戯れを感じる。 無意識に擦り寄って覚醒した。 天使の温もりに癒されて、心身隅々まで満ち足りて、爆睡したらしい。季生くんの腕の中は、怖いくらい安眠できる。 「おはよ、ゆりの」 目を開けると、それはそれは綺麗な顔がこっちを覗き込んでいて、いい加減、天に召されてしまったのかと思うほど、幸せな目覚めだった。 「朝ご飯できてる」 いつの間にやら朝ご飯を作ってくれていた季生くんが、昨日の二の舞にならないよう、起こしに来てくれたらしい。彼は素晴らしく優秀なセラピストであるだけでなく、この上なく優秀な同居人でもある。 伸びをしながらリビングダイニングに行くと、どこのホテルモーニングですか? と聞きたくなるようなおしゃれなモーニングプレートがテーブルに用意されていた。 梅入り雑穀米のごはん。香りのよいお味噌汁。緑豊かな野菜とお豆のサラダ。ひじきのオムレツ。カットフルーツとヨーグルト。 やっぱり天国かもしれない。 調子よくお腹が鳴って、朝から幸せにモリモリ食べていると、 「昼は具沢山味噌汁とおにぎりな」 季生くんがスープジャーの入った包みを持ってきてくれた。 なんと、お弁当まで用意されている! 季生くんは天使どころか神なのかも。 恭しく受け取って、出勤前の身支度を整えていると、 「ゆりの、ここ座んな。巻いてやる」 季生くんがアイロンを持ってきて器用に髪を巻いてくれた。 天使は、スタイリングまでできる! 間違いない、神さまや。 「季生くん、器用すぎない?」 「俺、美容系得意。メイクもしてやろうか」 このクオリティの高さに文句など付けられるはずもない。 令和男子恐るべし。季生くんのスペックの高さがえぐい。 そのすごさを裏付けるかのように、通勤途中、歩道や電車や駅構内、職場のあるビルに入ってからもやたらと視線を感じた。 「いやぁ、混んでましたね~」 満員電車から降りたら声をかけられるし、 「お疲れ様です」「行ってらっしゃい」「頑張って下さい」 道行く人から挨拶されるし、 「ありがとうございました。また絶対いらしてください」 ほぼ毎日通っているコーヒーショップでは極上スマイルで、『Be happy!』と書かれたカップを手渡された。 今日も世界は愛に満ちている。 「誰、あの美人!?」「もはや別人っ!!」 「小牧さんて、良いモノ持ってたんだね」「ていうか、むしろ付き合いたい」 薄暗い職場フロアも、なぜかキラキラ輝いて、眩しい人たちに囲まれた。仕事だったりそうじゃなかったり、自席への訪問者が後を絶たない。やたらとみんなに話しかけられてせわしない一日の始まりだった。
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