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(おせ)え」 仕事から帰ったら、家の前に見知らぬ若い美男子(イケメン)が座っていた。 おとぎ話かもしれない。 「え、…っと?」 夢か幻じゃなければ、大方家を間違えたんだろうと思いながら、及び腰でイケメンに近づいてみる。イケメンというものは警戒心を麻痺させる。 「今日泊めて」 言いながら立ち上がったイケメンは、抜群に長い足を見せつけながらしげしげと私の顔を覗き込んだ。色素の薄い中性的な瞳が美し過ぎて微動だに出来ない。 「なんか、ゆりの」 全人類が見惚れてしまうほど整った顔の造形。人間離れした長い手足。見れば見るほど眉目秀麗なイケメンは、あろうことか私の名前を呼びながら、言葉とは裏腹の可愛い仕草で小首を傾げた。 「…、やつれた?」 「誰よ、あんたっ!」 思わずがなり声を上げてしまったのは致し方ないと言えよう。 「まあ、ゆりのじゃこんなもんか。つか、(さみ)いし、早く中入れて」 「人の話を聞けっ!!」 開始数秒でキャラが崩壊した私を放置して、一人納得したイケメンが、私の後ろに回って背中をグイグイ押してくる。 「はいはい、どうどう」 さっさと鍵を開けろと言うことらしい。けど、背後に漂う美オーラがすごいし、なんかいい匂いするし、肩に置かれた指先が艶めかしいし? 夢ならそろそろ醒めようか? 「いやいや、あのね。えっと、あなたね。…どちら様、でしたっけ?」 勢いに飲まれて気づけば鍵を開けているからイケメンて怖い。なけなしの理性で背後に向き直って問いかけると、底なしに美しい瞳がわずかに歪められた。 「もしかして、俺のこと分かんない?」 不穏に揺れるふわりとした髪が胸に突き刺さり、罪悪感を感じながらぎくしゃくと頷く。頷きながら、いや、分かる、分かるよホントは。こんな素敵な人忘れるわけないじゃん、と全力で叫びたがっている本能的な何かを必死で抑えつける。 「…ムカつくな」 が、不機嫌に伏せられたイケメンの長いまつ毛にすぐさま降伏し、 「や、…っ」 いや、ホントは知ってます。知ってるんです――――っ と、理性をかなぐり捨てて叫びかけた唇は、次の瞬間、柔らかく甘い唇に塞がれていた。 …―――眩暈がした。 甘くて柔らかくてみずみずしい。 恥ずかしくて胸が締め付けられて幸せの形が見える。 足のつま先から物凄い勢いで駆け登ってきた熱に頭が沸いて爆発し、腰を抜かしてへたり込んだ私をまたいで、 「先、シャワー借りんね」 部屋に上がっていくイケメンの後姿を見ながら、あれ、私たちいつの間に家の中に入ったんだろうと思った。
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