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徐々に日暮れが早くなり、塾帰りはもう真っ暗になる。
そんなある日の帰り道、抜け道の公園で派手に喧嘩している集団を見た。よく見たらその中心で囲まれていたのが佑京くんで、
『すみません、喧嘩です。来てください、すぐっ、早くっ!!』
震えながら夢中で電話して(実際はどこにもつながっていなかったけど)、近づいたら、
『…小牧?』
佑京くんが一瞬こっちを見た。その瞬間に背後から角材みたいなので殴られて、佑京くんが地面に崩れ落ちた。
悲鳴を上げて駆け寄ると、喧嘩していた集団は、本当に警察が来ると思ったのか、倒れた佑京くんを見てヤバいと思ったのか、何か捨て台詞を吐きながら散り散りに去って行った。
佑京くんは地面に倒れたまま、動かない。
心臓がつかみ取られたみたいに痛くて苦しくて頭がガンガンした。
『佑京くん、…っ』
どうしよう、どうしよう、私のせいで、…
怖くて膝が震えて、這いつくばりながら近づいて、救急車を呼ぼうとしたら大きな手に震える指を掴まれた。
『大したことない、…』
佑京くんが目を開けて、起き上がろうとしていた。
『動いちゃダメ、…』
暗がりでもはっきり分かるくらい、佑京くんは頭から血を流していて、そんな光景を間近に見たのは初めてで、ハンカチで傷口を押さえてみたものの、震えが止まらず、ねじが外れたみたいにひたすら首を横に振っていた。
『泣くな。大丈夫だから』
頬に、佑京くんの長い指が触れて、自分が泣いていることを知った。
『そっちのが、痛い、…』
傷だらけで血まみれで、すぐに動けないくらい大怪我しているくせに、困ったように首を傾けて私をのぞき込む、佑京くんが愛しい。喧嘩も流血も私には日常離れしていて、怖い。どうしたらいいのか分からないし、何の役にも立てない。
それなのに。
佑京くんの隣は心地いい。離れがたい。離れたくない。
どうしようもなく気持ちが溢れて、涙が止まらなくなった私に、
『泣くなって、…』
佑京くんが唇で触れた。
柔らかくて優しくて幸せだった。
幸せを形にするとこうなるんだと思った。
初めてのキスは、血の匂いと涙の味がした。
『こまき、…』
佑京くんが、私を呼んでくれる。
それだけで、泣きたくなる。
鷲宮 佑京くんは、
私の高校時代の同級生で、喧嘩ばかりしていた不良少年で、初恋の人で、人生でただ1人、死ぬほど好きだった相手だ。
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