one more. 3

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徐々に日暮れが早くなり、塾帰りはもう真っ暗になる。 そんなある日の帰り道、抜け道の公園で派手に喧嘩している集団を見た。よく見たらその中心で囲まれていたのが佑京くんで、 『すみません、喧嘩です。来てください、すぐっ、早くっ!!』 震えながら夢中で電話して(実際はどこにもつながっていなかったけど)、近づいたら、 『…小牧?』 佑京くんが一瞬こっちを見た。その瞬間に背後から角材みたいなので殴られて、佑京くんが地面に崩れ落ちた。 悲鳴を上げて駆け寄ると、喧嘩していた集団は、本当に警察が来ると思ったのか、倒れた佑京くんを見てヤバいと思ったのか、何か捨て台詞を吐きながら散り散りに去って行った。 佑京くんは地面に倒れたまま、動かない。 心臓がつかみ取られたみたいに痛くて苦しくて頭がガンガンした。 『佑京くん、…っ』 どうしよう、どうしよう、私のせいで、… 怖くて膝が震えて、這いつくばりながら近づいて、救急車を呼ぼうとしたら大きな手に震える指を掴まれた。 『大したことない、…』 佑京くんが目を開けて、起き上がろうとしていた。 『動いちゃダメ、…』 暗がりでもはっきり分かるくらい、佑京くんは頭から血を流していて、そんな光景を間近に見たのは初めてで、ハンカチで傷口を押さえてみたものの、震えが止まらず、ねじが外れたみたいにひたすら首を横に振っていた。 『泣くな。大丈夫だから』 頬に、佑京くんの長い指が触れて、自分が泣いていることを知った。 『そっちのが、痛い、…』 傷だらけで血まみれで、すぐに動けないくらい大怪我しているくせに、困ったように首を傾けて私をのぞき込む、佑京くんが愛しい。喧嘩も流血も私には日常離れしていて、怖い。どうしたらいいのか分からないし、何の役にも立てない。 それなのに。 佑京くんの隣は心地いい。離れがたい。離れたくない。 どうしようもなく気持ちが溢れて、涙が止まらなくなった私に、 『泣くなって、…』 佑京くんが唇で触れた。 柔らかくて優しくて幸せだった。 幸せを形にするとこうなるんだと思った。 初めてのキスは、血の匂いと涙の味がした。 『こまき、…』 佑京くんが、私を呼んでくれる。 それだけで、泣きたくなる。 鷲宮 佑京(わしのみや うきょう)くんは、 私の高校時代の同級生で、喧嘩ばかりしていた不良少年で、初恋の人で、人生でただ1人、死ぬほど好きだった相手だ。
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