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分厚い透明な壁で仕切られた集中治療室で、横たわる佑京くんの姿を外から見ることを許された。壁のこちら側には憔悴しきった様子の美玖さんと、警察の方々がいる。壁にぎりぎりまで近づくと、その向こうに。
白いベッドの上で佑京くんが静かに横たわっていた。
頭は髪が見えないくらい厚く包帯に覆われてカバーが被せられている。顔や身体、腕や足のあちこちがチューブで機械に繋がれている。ベッドサイドに置かれたモニタが規則的に動きながら波形を描いていた。
大きくて、強くて、優しい佑京くんが、とても小さく見える。
隣に立つ季生くんがそっと私の指先を掴んだ。
そこに最後の希望があるように。
私が握り返すと、季生くんがもう一度強く握ってくれた。
「…暴走車があなたを狙っていたというのは確かですか」
季生くんの病室に戻ると、ベッドに座る季生くんを囲んで田上さんたち警察の人が事故についての確認を始めた。
「間違いない。迷いなく彼、…俺、に向かって突っ込んできたし、直前、運転手から明確な殺意を感じた」
季生くんがきっぱり言い切った。
警察の話では、事故現場は私の自宅官舎からもほど近い公道で、見晴らしも良く、道幅も狭くない。佑京くんと季生くんが二人並んで歩いていたところに、背後から暴走車が突っ込んできて、一切スピードを緩めることなく衝突すると、そのまま逃げ去ったらしい。現場にブレーキ痕は全くない。目撃証言や防犯カメラから割り出された車は盗難車で、現場から数十キロ離れた林の中に乗り捨てられていた。運転していた人物は逃走中だが、キャップを深くかぶり、マスクにサングラスという出で立ちで、最初から身元を隠す目的があったと推測されている。
「お心当たりはありますか。なにか、命を狙われるような、…? 最近、周りで不審なことがあったり、不審な人物を見たり、とか」
田上さんに尋ねられて、季生くんは難しい顔をして黙り込んだ。ふと視線を上げた季生くんと、一瞬視線がぶつかって、彼が空き巣騒動について考えているのではないかと思った。
暴走車の事故と空き巣を結びつけるのは早計だろうか。
「ioは職業柄、謂れのない誹謗中傷を受けることもあります。不審と言えば言えることは、実は多々あるんですが、…」
曽根さんという事務所の社長さんと、北村さんというマネージャーさんが困惑した表情で顔を見合わせながら言い出した。警察の田上さんは、念のため事務所でioくん宛てに届いた贈り物やメッセージを確認させて欲しいと言い、社長さんが了承した。
マネージャーの北村さんが、
「なあ、io。それで急に休みたいなんて言い出したのか? 居場所が分からなくて心配したよ」
小さく季生くんに囁きかけた。
「まあ、…」
季生くんが曖昧に頷く。
事務所の人たちには黙って私のところ来ていたらしい。
「犯人には一切の迷いがありません。計画的な犯行だった可能性が高い。我々も警備につきますが、身辺の安全には十分に注意してください」
「ありがとう、世話になる」
話し合いを終え、警察と事務所の方々が帰って、病室に季生くんと2人だけになった。
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