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「…お前、大丈夫か」
ベッドに座る季生くんから気遣うように覗き込まれて、慌てて大きく頷いた。怪我人に心配をかけてしまった。
「大丈夫だよ。ちょっといろいろ、…ショックだけど」
実際には、ショックが大き過ぎて、現実を直視出来ないと言うか、心と身体がバラバラで魂だけ置いて行かれてるような感じというか、…大丈夫とは程遠い。
季生くんが誰かに命を狙われていて、一緒に事故に遭った佑京くんが昏睡状態なんて。夢なら早く醒めて欲しい。
「…まあ、そうだよな」
季生くんが私の頭に手を伸ばしかけて、その手をぎゅっと握りしめた。
「…あのさ、俺。…俺、実は、…」
何かを言いかけて、言い淀む。
季生くんの色素の薄い綺麗な瞳が、戸惑いを映してゆらゆら揺れる。
季生くんには、何か心当たりがあるのかもしれない。狙われるような何か。
もしかしたら、空き巣騒動に巻き込んでしまったと責任を感じているのかも。
「…季生くん、ありがとう。私は大丈夫だから、ともかく季生くんはゆっくり休んで」
「ちょ、…っ、待て」
身体機能に異常がないとはいえ、ゆっくり休養してもらわなければ、と私もほどほどに帰ろとしたら、季生くんに腕を掴まれた。
「帰るのか?」
「うん」
「ダメだ」
思いのほか、強く引き留められた。
「でも、…」
「ちょっと、一人にしたくない」
え、…、と。それは、どういう、…
見返すと、季生くんの強い視線にぶつかった。
「恋人なら、巻き込まれる可能性があるだろ。現に自宅も荒らされたわけだし」
「…恋人?」
誰と、誰が?
ちょっとよく分からなくなって季生くんを見つめていると、季生くんは私の腕から手を放して何やらそわそわと胸元やズボンのポケットを探り始めた。
それは、かつて佑京くんがしていた仕草にあまりにも似ていて、
「…タバコ?」
「ああ、…」
思わずに聞いてしまったけれど、肯定されて驚く。
「えっ? 吸うの!?」
「…あ、悪い。お前、嫌いだったな」
なんか謝られたけど、問題はそこじゃない。
「うん、…ていうか、季生くん、未成年、だよね??」
ん? 18歳成人なら、正確には成人してるのか??
「…あー、…」
季生くんが気まずそうに口籠った。
え、季生くん喫煙するの? してたの? どっちにしても、煙草は二十歳になってからだよね!?
非難を込めて季生くんをじっとり見つめると、
「や、ちょっと落ち着かね、…っつか、いや、…吸わねえよ。吸わねえから、そんな見んな」
季生くんは物凄くばつが悪そうに顔を背けて、私の顔を片手で覆った。
「…不良」
季生くんの指の間から盗み見ながら呟いたら、唇の端を微かにもたげて笑われた。
「今更か」
なんだか、懐かしい感じがして、胸が締め付けられた。
佑京くんは、よくそんな風に笑った。
季生くんは私の顔を塞いだ手を頭にスライドさせると、
「…触っても、平気なんだな」
私を見つめて確かめるように頭の上に手をのせた。
「…うん」
季生くんの瞳が切なくにじむ。
「そうか、…」
季生くんはそのまま私の頭を引き寄せると、そっと胸に抱いてくれた。確かに響く鼓動が安心を与えてくれる。季生くんの温もりは優しくて、どうしてか、ひどく懐かしかった。
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