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「と、いうわけで、お前今日はここに泊まれ」
「え、…」
「なんだよ? 嫌なのか?」
「嫌、…とかでは、…」
…ないけども。
正直、戸惑いを隠し切れない。
目の前にいるのが季生くんの姿をした佑京くんだということは分かった。
何がどうしてそうなったのか分からないけれど、見た目は季生くん、中身は佑京くん、なのらしい、と一応むりやり納得した。
で。佑京くんは、昨日の空き巣騒動も狙いは季生くんにあると思っている。
「俺が今捜査している事件の被害者が、直前に連絡を取っていたのが雨瀬季生だった。雨瀬は何か感じるものがあって、お前の家に身を隠したんじゃないかと思う。だが、奴らに嗅ぎつけられて、お前の家が荒らされた。今日、俺が雨瀬に会っていたのは、その被害者との関係を聞くためだ」
なるほど。それで、季生くんと佑京くんは二人で一緒にいたのか。
「被害者は、令和大学教授の鵜飼聖人という男性で、昆虫バイオテクノロジー研究の第一人者だ。二日前、東京湾につながる京浜運河で、遺体で発見された。彼は泥酔状態で、誤って海に転落したと思われたが、雨瀬によると、その後、2人は会う約束をしていたらしい。人と会うのに泥酔するまで飲むのはおかしいし、家族の話では鵜飼は最近健康診断で引っかかって、飲酒を控えていたらしい」
季生くんが狙われたのは、モデルをしていて名前と顔を知られていたからとかではなく、もっと別の理由があったってこと?
「鵜飼の転落は事故ではなく事件で、雨瀬は、狙いは『羽』じゃないか、と言っていた」
羽、…
そう言われて思い出すのは、幼い季生くんが打ち明けてくれた秘密。
『ゆりの、なくな。おれのひみつおしえてやるから』
季生くんは特異体質で生まれつき背中に羽がある。つい最近も、その美しい肩甲骨に透ける小さな二枚の薄い羽を見せてもらったばかり、…
「心当たりがあるんだな?」
佑京くんに聞かれて頷いた。
「そうか。俺たちは暴走車に襲われるまで、その話をしていた。半信半疑だったが、今、雨瀬の身体になって、はっきり分かる。背中に違和感があるんだ。普通はないところに神経が通ってる感じがあって、自分の意志で動かすことも出来る。これは研究者にとっては非常に価値の高い特異な身体なんじゃないかと思う」
つまり。
季生くんの身体は希少価値が高いから狙われているってこと?
「なぜ殺意を向けられているのか分からないが、相手はプロだ。手段を択ばない。お前を人質にすることは十分考えられる。こいつの身体を守りながら、犯人を捕まえたい。協力してくれ」
…で、冒頭に戻るわけなんだけど。
「お前ら、風呂も寝るのも一緒なんだろ。今更同じ部屋に泊まるくらい、…」
「それは、中身も季生くんだからで、…っっ」
佑京くん。何気にしっかり聞いてたじゃん。
と思いながら、戸惑いをぶつけたら、ちょっと傷ついたような顔をされた。
「…じゃあ、黙ってればよかったな」
そんな、ふて腐れたような顔で見られても困る。
どこからどう見ても季生くんにしか見えないのに、どう考えても佑京くんとしか思えない言動と表情で、過去と今、見えるものと感じるものがぐちゃぐちゃになる。
それに。
「…美玖さんに悪いし」
思い出してしまった。
佑京くんはもう昔の佑京くんじゃない。
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