one more. 4

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「は? 美玖?」 佑京くんが心底面食らった顔をするから、知らず知らず、下唇が前に出てしまった。分からないふりとか、佑京くん、意外とあくどいな。佑京くんが結婚してると知って、どれだけ打ちのめされたと思ってるんだろう。 別に生涯独身でいて欲しいとか、高校時代の経験を引きずって誰とも付き合わないで欲しいとか思ってたわけじゃない。 だけど。 現実を目の当たりにした衝撃はすごかった。あんなに自分が要らない人間だと思わされたことはない。 「…なんで美玖が出てくる?」 戸惑いを隠さずに、季生くんの顔をした佑京くんが問い質す。 季生くんは若いくせに妙に聡いところがあって、私の動揺とか先回りして慰めてくれるから、この鈍さ窮まる季生くんの中身はやっぱり佑京くんなんだなと変なところで納得した。 「…遅ればせながら。ご結婚おめでとうございます」 「結婚? まあ、確かにしたな。ありがとう」 嫌味度全開でお祝いを言ったのに、佑京くんは戸惑いつつも率直に認めた。 佑京くんのバカ。そんな早々に認めなくてもいいじゃん。自分で振った話題に自分で傷つくとか。これぞブーメラン。私のバカ。素直にお礼まで言われてしまったじゃないの。 「それと、お前がここに泊まることと何の関係が?」 まだよく分からない顔で、佑京くんが小首を傾げる。それが季生くんの綺麗な顔とマッチして可愛い。一人でやきもきしている自分が本気でバカに思えてくる。 「…嫌なんじゃないかな、奥さんとしては。外見が別の人でも、中身が旦那さんなら。他の女と同じ部屋に泊まるの」 ふて腐れた気持ちで下を向いた。 なんで私がこんなことを説明しなきゃいけないんだ。ホントバカみたいだ。佑京くん、全然女心が分かってない。 と思っていたけど、しばらくたっても全く何の反応もないので、そろそろと顔を上げると完全にぽかんとした佑京くんと目が合った。佑京くんが固まっている。さっきまで理路整然とした警察官の顔だったのに。季生くんにあんまり変な顔をさせないで欲しい。なんだかもう、一周回って笑えてくる。 「…お前。もしかして、妬いてんの?」 なんて、笑ってる場合じゃなかった。 戸惑いを残したまま私をのぞき込んだ佑京くんは、心なしか唇の端がニヤニヤしている。 「や、…妬いてないしっ、一般的に常識的な範囲で考えてみたら当然のこと言っただけだし、…っ」 慌てて背けた頬を佑京くんの手のひらが包んだ。 その温度に、どっきんと大きな音を立てて跳ね上がった心臓が、 「…美玖は、いとこだけど」 …は? 展開について行けずにフリーズした。
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