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…いとこ? …いとこ??
いとこってなんだっけ??
完全に思考力が死んでしまった頭に喝を入れる。
待て待て、落ち着け。しっかりするんだ、私。
いとこね、いとこ。それってあれでしょ、親同士が兄弟姉妹で、血縁関係はあっても結婚出来るっていう、…
「…って、結婚出来るんじゃんっ!」
思わず口に出したら至極冷静な返答がもたらされた。
「美玖は最近結婚したが、仕事上は旧姓を使っている。戸籍上では山田美玖だ」
「やまだみくぅ!?」
素っ頓狂な自分の声に自分でビビる。
いや、いいんですけど、山田美玖さん。いいです、素敵です。素敵ですけどね、…
「結婚相手の山田は同僚の刑事で、同じ苗字が他に2人いる。鷲宮も俺と被るから、美玖は名前で呼ばれることが多い」
…いいんですけどっ
ああ見えて優しいとか、外では強いけどうちでは溺愛とかって、山田さんっつー旦那さんのことなんかいっっ
美玖さん、紛らわし過ぎるでしょう!!
「…でも。あの、…う、佑ーくん、て、…」
呼んでましたよね?
悪あがきみたいなことを呟く口に、実は私はそんなことを結構気にしてたんだと思い知る。
「いとこだからな。お前も呼ぶ?」
佑京くんが傾げた顔を近づけながら、長い指で私の頬を摘む。完全にニヤニヤしている。
「…呼びません」
居たたまれない。消えたい。なんという、恥の極み。
佑京くんと同じ苗字の美玖さんに会って、2人が結婚したんだと思いこんで一人どん底まで落ち込んだ。それが誤解だったなんて。挙句、嫌味っぽいことまで言っちゃったなんて。なんという浅はかな私。
と思う一方で。
恥ずかしさにもんどりうってる身体中の細胞が、じわじわ歓喜しているのも感じる。佑京くん、結婚してないんだ。してなかったんだ。そう言えば指輪してたのは美玖さんだけで、佑京くんはしてなかった気がする。そうかそうか。独身か。
「またお前のそんな顔が見れるなんてな」
恐らく赤くなってるであろう私の顔を見て、佑京くんが、ふっと優しい笑みを漏らした。甘くて優しくて、少し切ない。
「ちょっとからかうとすぐ怒って照れて赤くなって、…」
頬を摘まんでいた指が元に戻って、そのまま緩やかに頬を撫でる。
季生くんの手の平だけど。季生くんの指だけど。
「…佑京くん」
佑京くんは私がからかわれて怒ると、こんな風になだめて、それから。
キスしてくれた。
その後見上げると少し赤くなって目を逸らせる。そんな佑京くんがとても好きだった。
でも今は。
「…じゃあ、簡易ベッド、頼むから」
わずかに瞳を揺らして、佑京くんの手が離れた。
そこにいるのは間違いなく佑京くんだけど。佑京くんじゃない。
懐かしくて。胸が痛くて。…怖い。
感傷に浸っている場合じゃない。
これからどうなるんだろう。
季生くんの意識は眠っている佑京くんの中にあるんだろうか。それとも季生くんの身体の中で眠っているんだろうか。2人は元に戻るんだろうか。特異な身体を狙われている季生くんに、もし何かあったら。季生くんは、佑京くんは、どうなってしまうんだろう、…
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