one more. 6

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「こないだ来た刑事さん、目つき悪くてすごい怖かったんですけど、お兄さんみたいにカッコいい人もいるんすね」 「鵜飼先生のこと、俺らも協力しますんで、真相がわかったら教えてください」 すっかり打ち解けたらしい学生さんたちに見送られ、 「うるせえ、男は顔じゃねえんだよ」 なぜか若干不機嫌に、佑京くんが学生さんたちの耳を引っ張ってから、 「協力ありがとな」 手を上げて研究室を出ると、令和大学を後にした。 もうすぐ日付が変わりそうで、こんな時間まで研究室に残って学生さんも大変だな、と思う。空を見上げると雲の向こうにわずかに星が見えた。 「俺はもうちょっと調べたいことがあるから、お前、先に寝てて」 佑京くんのマンションに戻ると、佑京くんは早速持ち帰った文書などを積み上げ、パソコンを立ち上げた。 「ご飯とか連れて行けなくてごめん」 「…そんな、全然」 またしてもコンビニエンスストアでお弁当を買ってきた。今夜は幕の内鮭弁当。こんな夜中にがっつり食べるのも、…と思いながら完食してしまった。お昼にあまり食べられなかったのでお腹が空いていたのかもしれない。佑京くんがデザートにモンブランパフェを食べていて、さりげなくニヤニヤしてしまった。 変ってないし。可愛いし。 「…なに? 食べる?」 「ええ、…っ!?」 違うしっ!? と思ったけど、何かを勘違いしたらしい佑京くんが、スプーンに乗せたモンブランパフェを有無を言わさず私の口の中に押し込んだ。 「…なんで真っ赤?」 いや、ホント、それ。 中学生か、私。 いやでもまさか。この状況でモンブランをシェアっていうか、あーん、的なことするとは思ってなくて、心の準備っていうか、なんていうか、… 「お前、モンブラン好きじゃなかったっけ」 小首を傾げながら佑京くんがそのスプーンで続きを食べる。 全くもって飄々(ひょうひょう)としている佑京くんに、ちょっと悔しく思ってしまう。頼むから私、すぐに赤くならないで。 だいたい、モンブランをよく食べてたのは佑京くんが好きだったからに決まってるじゃん。と心の中でふてくされる。 「もしかしてこいつ、ダイエットとかしてんのかな。すごい悪いことしてる気分になってきた」 悶々としていると、佑京くんがさらっと話題を変えて自分のお腹を摘まんでいる。 「体脂肪率とかエグそうだな。足も驚くほど長いし。俺のズボンだと丈がちょっと足りないし」 そんな風には見えなかったけど、ぶつぶつぼやいている。 「…どうせ俺は目つき悪くて怖えし」 というか、ちょっと拗ねてる? 「お酒飲まなかっただけ偉いんではないでしょうか」 一応何気なくフォローしてみたら、 「そっか。こいつ19だっけ。…若いよな」 佑京くんがちょっとしんみりした口調でつぶやいた。 そう、若い。まだ全然若くて、ハイスペックで容姿端麗。私の天使はまだまだこれからたくさんの楽しいことを経験していくんだよ。世界に羽ばたいていくんだよ。 「こいつが20歳になったら、乾杯したいな」 佑京くんの言葉に激しくうなずいた。 多分、私の心情が伝わっていて、佑京くんが長い手を伸ばして頭を撫でてくれた。それからテーブルを回って、そっとその胸の中に入れてくれた。 力強く、優しい鼓動。 本当はそんな場合じゃなかったのに、私を助けに来てくれた季生くん。 絶対。 季生くんの20歳の誕生日をお祝いするんだ。
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