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ほどける。とろける。
ゆるんで、うるんで、とけて、ただよう。
身体が緩んで芯までほぐれて、心地よさに揺れる。どうしようもない快感が溢れて、身体中、隅々にまで満ちていく。
季生くんの優しい手と甘い唇としなやかな身体が、触れて辿って撫でて包んで、頑なな私を否応なしに開いていく。怖いくらい気持ちいい。
「き、…お、くん、…」
我慢出来ずに声が出て、涙が零れる。
「…ん? 気持ちい?」
「…う、…ん」
季生くんが優しい。手も指も唇も、私に触れる全てが優しい。眼差しも舌先も声も吐息も、私をくすぐる全てが優しい。
嬉しくて潤んで、喜びに弾んで、溶けて溢れてどこまでも昇っていく。
なのに。それなのに。快感しかないのに。
なんで。やっぱり。どうして。どうしても。私は、…
「…ごめん、季生くん。やっぱ無理――――っ」
…欠陥品なんだ。
「痛って!!」
絶望に飲み込まれて、あろうことか、季生くんの急所を思いっきり蹴り飛ばしてしまった。
最低だ。最悪、…
「おっ前、…これが男にどんだけのダメージか、分かって、…っ」
季生くんがうずくまって苦痛に耐えている。
「ごごご、ごめん、ごめんなさい。季生くん、本当にごめんなさい。冷やした方がいいかな。なんか持ってくる?」
苦痛に喘いでいる季生くんを見て、血の気が引く。私はなんてことをやらかしてしまったんだ。どうしよう。どうしたら。いや、本当にひどい。最低だ、私。一刻も早く死んだ方がいい、…
「…ゆりの?」
何とか苦痛をやり過ごしたらしい季生くんが、私に向き直って手を伸ばした。
「お前、…大丈夫か」
季生くんの大きな手が私の頬を包んで、無意識に震えた。季生くんの綺麗な指が涙に濡れていく。
何で泣いてるの、私。ひどい目に遭ったのは季生くんなのに。痛かったのは季生くんなのに。季生くんは何にも悪くないのに。
「…季生くん、ごめん。本当にごめんね。何にもしてくれなくても、好きなだけ居てくれていいから、…何でも、好きに使っていいから、…」
加害者のくせに泣いている私を、泣きながら弁明している最低な私を、…季生くんはゆっくり抱きしめてくれた。
季生くんのきめ細やかな肌が、慰めるように優しく張り付いて、それがどうしようもなく悲しくて、涙が止まらない。
「ごめん、ごめんね、季生くん。私、ダメなの。欠陥品なの。お、お、お、…女として価値がないの」
自分で言って、自分に突き刺さった。
馬鹿みたいだと思う。いい加減にしろって思う。こんな、誰もが普通に出来ること、何でできないんだ。こんな女、誰もいらない。こんな醜い出来損ない。欲しがってくれる人、誰もいない。
私には、女としての価値がない。
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