4351人が本棚に入れています
本棚に追加
/231ページ
火事に遭って行くところが無くなった私を、修平さんは自分の家に置いてくれた。
階段から落ちた私を助けて足を捻挫した彼のために、飼い犬のアンジュ(三歳のフラットコーテットレトリバーの女の子)のお世話と、家事の手助けをすることを大義名分に、私は彼の家に居候させてもらうことになったのだ。
その後も小さなハプニングを乗り越えて、私の両親の許可も下りた今、独り暮らしをしていたアパートから彼の家に引っ越すことに。
とはいえ、家電類は全滅だし、愛蔵の本達も無残に濡れてしまってダメになってしまっている。
私が持ち出すことにしていたのは、クリーニングに出せば着れそうな洋服、お気に入りの食器や調理器具、思い出の品――ぐらいのものだった。
残ったものは後日まとめて業者が処分してくれるように、修平さんが手配してくれた。
「こんなに少なくて大丈夫?」
案の定、荷物の少なさに修平さんが心配している。
「うん。すぐに必要なものは前に運んだし、そもそも生活するのに必要な物は、みんな修平さんの家にあるでしょ?」
彼の家は高級住宅街にある大きな一軒家で、ゲストルームも数部屋あるくらいに広いから、私の荷物を置いておく場所に困ることはない。
けれど、余分な荷物を持っていくのは私の性分に合わない。
「それに……、私が実家から持って来た荷物のほとんどは、『本』だったから……」
「そっか…、こんなに沢山、残念だったね……」
水浸しになった痕跡が残る本棚を、二人一緒に見上げる。
そこには、私が昔から愛読してきた小説がシリーズでいくつも並べてある。もちろん『橘ゆかり』の本も。
「俺の部屋の本棚にも同じものもあるし、杏奈の好きに読んでいいからね」
「ありがと、嬉しいよ。修平さんちには書庫もあるんだよね!今度ゆっくり見てみたいな」
「いつでもどうぞ。……っていうか、杏奈」
太すぎず整った眉を、彼が少し上げて目を細める。
「『修平さんの家』、じゃないだろ?」
「あっ!…えっと、」
「今日からは『俺たちの家』だよ」
そう言って私の肩を抱き寄せた彼は、私の頬に「ちゅっ」とリップ音を立てた。
最初のコメントを投稿しよう!