3. 突きつけられた現実

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 朝食を食べた後、身支度を整えた私を、修平さんはいつものように図書館まで車で送ってくれた。    別れ際には「絶対無理しないで。少しでも辛かったらちゃんと周りに言うんだ。俺にはいつ連絡くれてもいいから」と念を押されてしまった。    (修平さんはちょっと過保護かも……)  開館を迎えた図書館で、利用者の人に挨拶をしながらそんなことを考える。  体は少し重たいけれど、昨日たっぷり寝たのと温かい雑炊が効いているのか、思ったほど辛くは無かった。  ―――でもそう思っていたのは、昼休憩に入る前までだった。  「杏ちゃん大丈夫?顔色が良くないわよ」  昼休憩を終えた後、蔵書を書架に戻す作業をしていると、隣にやってきた千紗子さんが私の肩に手を置いてそう言った。  「千紗子さん……。大丈夫ですよ、ちょっと疲れてるだけですから」  本当は立っているのが辛くて、ふらつく足を支えているだけで精一杯。  そんな私を怪訝そうに見た千紗子さんが、私の肩に置いた手を額に持って行く。  「杏ちゃん―――熱があるわよ」    「え?」  「少し触っただけでも熱いのが分かるわ」  私の顔を覗き込みながら心配そうな顔でそう言うと、千紗子さんは表情を硬くして口を開く。  「今日は早退しなさい。このままだと杏ちゃん、倒れてしまうわよ」  言い含めるようにそう言う彼女の顔はいつもの『優しいお姉さん』ではなくて、『職場の先輩』そのものだ。  「……はい」  ションボリと肩を下げて項垂れる私の頭を、柔らかな手のひらでそっと撫でた千紗子さんは、表情を和らげる。  「体調が悪い時はしっかり休んで、元気になったらまた頑張ればいいのよ」  「はい……」  小さく返事をすると彼女がきれいな顔で満足そうにニッコリと微笑んだ。 「お言葉に甘えて、今日は、」  『早退させていただきます』と続けようとしたところで、目の前がクラリと歪んだ。  (あ、倒れちゃう……千紗子さんを巻き込まないようにしないと……)  そう頭で分かっているのに、自分の体がどこを向いているのか分からない。  前後左右上下がひっくり返ったみたいな感覚がして、目の前が真っ黒になった。  「杏奈っ──」  倒れる直前、どこかから大好きな声が呼んだ気がした。
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