4. The first argument

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 「ごめんなさい……」  低い声に体が縮こまる。  一緒に暮らし始めて良く分かったのだけれど、修平さんはいつも穏やかで優しい。  私をからかったりするちょっと意地悪な面もあるのだけれど、最後は一緒に笑い合ってしまうようなことばかりだ。  そんなふうな毎日なので、彼が私に対して怒った声をほとんど聞いたことが無かった。  (無理しないで、って言われてたのに、守れなかったから怒られるのも当たり前だよね……)  あんなに心配して世話を焼いてくれた彼の手を、更に煩わせてしまったことを後悔する。    (私、何にも出来ない子みたい……)  体調管理すらままならない自分が情けなくなって、目頭が熱くなった。  じわじわと瞳に溜まる水滴を、なんとか止めようとするけれど止められずに、掛け布団の端をギュッと握る。  すると、その手の上に、そっと大きな手が重ねられた。  涙がこぼれないよう瞬きを我慢していた瞳を見張る。  視線を重ねられた手から彼の方に向けると、さっきの声とは裏腹に、眉を下げて優しい瞳で私のことを見つめている修平さんがいた。  彼と目が合った瞬間、耐え切れずまぶたが動いて、涙が一滴、ポロリとこぼれた。  「ごめん……」  (どうして修平さんが謝るの?)  『ごめん』の中身が分からなくて、目をしばたかせた時、まぶたから今度は二粒の滴がポロポロとこぼれ落ちた。  修平さんは辛そうに目を細めて、その雫を指先でそっと拭い取る。  それからゆっくりと私の顔に彼の顔が近づいて来た。  その綺麗な顔から瞳を逸らすことができない。  心臓が早鐘を打つ。  あと少しで鼻先が触れ合うとき、私は恥ずかしさのあまり、両目をキュッと瞑った。  ―――コツン。  触れたのは額だった。  そっとまぶたを持ち上げてみると、私の額に彼の額がくっ付いている。  熱を測る時に見られるおでこそのポーズに、私はひどく焦った。  (まっ、漫画でしか見たことないヤツだ~~っ!!)  心の中ではそんな叫び声を上げているのに、口を開くことが出来ない。  すぐ目の前には大きなアーモンド型の瞳があって、私のことをじっと見つめている。  吐息がかかるくらいの至近距離に、口を開くどころか、息を詰めて固まってしまった。
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