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「ごめんなさい……」
低い声に体が縮こまる。
一緒に暮らし始めて良く分かったのだけれど、修平さんはいつも穏やかで優しい。
私をからかったりするちょっと意地悪な面もあるのだけれど、最後は一緒に笑い合ってしまうようなことばかりだ。
そんなふうな毎日なので、彼が私に対して怒った声をほとんど聞いたことが無かった。
(無理しないで、って言われてたのに、守れなかったから怒られるのも当たり前だよね……)
あんなに心配して世話を焼いてくれた彼の手を、更に煩わせてしまったことを後悔する。
(私、何にも出来ない子みたい……)
体調管理すらままならない自分が情けなくなって、目頭が熱くなった。
じわじわと瞳に溜まる水滴を、なんとか止めようとするけれど止められずに、掛け布団の端をギュッと握る。
すると、その手の上に、そっと大きな手が重ねられた。
涙がこぼれないよう瞬きを我慢していた瞳を見張る。
視線を重ねられた手から彼の方に向けると、さっきの声とは裏腹に、眉を下げて優しい瞳で私のことを見つめている修平さんがいた。
彼と目が合った瞬間、耐え切れずまぶたが動いて、涙が一滴、ポロリとこぼれた。
「ごめん……」
(どうして修平さんが謝るの?)
『ごめん』の中身が分からなくて、目をしばたかせた時、まぶたから今度は二粒の滴がポロポロとこぼれ落ちた。
修平さんは辛そうに目を細めて、その雫を指先でそっと拭い取る。
それからゆっくりと私の顔に彼の顔が近づいて来た。
その綺麗な顔から瞳を逸らすことができない。
心臓が早鐘を打つ。
あと少しで鼻先が触れ合うとき、私は恥ずかしさのあまり、両目をキュッと瞑った。
―――コツン。
触れたのは額だった。
そっとまぶたを持ち上げてみると、私の額に彼の額がくっ付いている。
熱を測る時に見られるおでこそのポーズに、私はひどく焦った。
(まっ、漫画でしか見たことないヤツだ~~っ!!)
心の中ではそんな叫び声を上げているのに、口を開くことが出来ない。
すぐ目の前には大きなアーモンド型の瞳があって、私のことをじっと見つめている。
吐息がかかるくらいの至近距離に、口を開くどころか、息を詰めて固まってしまった。
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