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「杏奈に怒ったわけじゃないんだ、怖がらせてしまってごめんな……」
そっと口を開いた修平さんは、私を見つめたままそう言った。
その整った顔が痛そうな表情を浮かべるのを、私はただ黙って見ていることしか出来ない。
「杏奈が熱があるって分かってたのに、仕事に行くのを黙って見送ることしか出来なかった自分が情けなくて……」
眉間にしわをグッと寄せて、修平さんがそう言った時、私の口から反射的に言葉が飛び出した。
「そんなことないっ!!」
「杏奈……?」
それまでくっついたままだったおでこを勢いよく離して、声高にそう言った私を見て、修平さんはびっくりした顔をする。
「修平さんは朝ご飯だって送り迎えだって、いつだって私のことを考えて色々としてくれてるよ!」
「杏奈……」
「それに、情けないのは私の方だよ……」
それまでとは打って変わって声が小さくなる。
「どういうこと?」
「修平さんに甘えてばかりで……今日だって心配してくれてるのに、私が仕事に行くって言い張ったんだもん。そのせいでまた修平さんに迷惑かけちゃって…本当情けないよ……」
言っているうちにまた瞳が潤みだして、声が震える。
「こんな私なんかじゃ……修平さんには相応しくない……」
自分で言っておいて、その言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
これ以上顔を上げていられなくて、私は修平さんから顔を背けた。
その反動でこぼれた涙が枕に吸い込まれていく。
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