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「ごほっ、けほけほっ!はぁっはぁっ、……」
彼の唇が離れた途端、私は大きく咳き込んだ。その拍子に溜まっていた涙がボロボロっとすべり落ちる。
長く激しい口づけで酸欠になったのか、目の前がクラリと歪んだ時。
「『相応しい』とか『相応しくない』って……いったい誰が決めるの?」
低く沈んだ声に、ハッと視線を上げた。
そこにはきつく眉根を寄せてる修平さんが。
その瞳からはさっきまでの冷さは消えていて、どこか苦しげな様子。
何か言わなければ。そう思うのに、何を言ったらいいのか分からない。
中々整わない息を肩でつきながら、私が彼を見上げることしか出来ないでいると、ポツリと低い声が落とされた。
「俺が杏奈を想う気持ちは、そんなものに負けるの?」
そう言った彼の瞳は、何かに傷ついたようにひどく寂しげだった。
ハッとした。私は言ってはいけないことを口にしたのだ。
「っ、」
反射的に謝ろうとした時、彼の指が私の頬をすうっとなぞった。
その指の先が私の涙で濡れていく。
「ごめん………」
小さく謝る声が私の耳にかすかに届いた。
(修平さんが謝ることないのっ、)
そう言いたいのに、口からは息が漏れる音しか出ない。
「少し頭を冷やしてくる。杏奈は具合が悪いんだから、ちゃんと寝て」
修平さんは素早く私の上から離れ、そのままドアの方へと歩いて行く。
「……具合が悪い杏奈にすることじゃなかった、ごめん」
開らいたドアから出ていく間際、顔を半分だけこちらに向けた彼はそう言うと、そのままドアを閉めて出て行った。
「待って、修平さんっ!」
やっと出た私の声は、閉じたドアに跳ね返されて、彼に届くことはなかった。
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