手のひらの中の神様

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優しさあふるる春の神も、煌めく夏を運ぶ蒼き神々や精霊たちも、実りの秋の女神たちも、そして厳しい心の冬将軍も…… どの神様も季節を運び、季節が熟すると去っていく。 けれどあなたはどこにも行かないの。 ずっとこの街に留まって、次に来る春を待つのですよ。 春の神様が諭す。 「その昔、科学と魔法で何でもできると奢ってしまった人間は、季節すら自分たちの手で動かせると思い上がってしまいました。だから怒った冬将軍は、春待ちの神様を封印したのです」 春を待つ心を失った人々は、冬の厳しさに心を閉ざし、巡る季節の予兆を感じることが出来なくなって、予期せぬ季節の変わり目に翻弄されていったのだそう。 やがて冬には地下に潜り、雪が溶けるのをひたすら待つだけの歳月を重ね…… ようやく、自分たちが犯した罪に気づいた頃………… 「春待ちの神は人間から生まれるのですよ。人々が自然を畏れる謙虚さと、おたがいを慈しむ暖かさを取り戻した時、一番不幸な夫婦の元に生まれるのです」 春の神様は私の髪を優しく撫でながら、竪琴のような声で古い神話を聞かせてくれた。 春待ちよ。一番不幸な夫婦の元に生まれ、魔法を持たず育ち、捨てられ、それでもなおこうやって皆に見守られ育ちました。 そして姿を失ってもなお、あなたは人々のそばで見守ることをやめなかった。 長い長い呪いは消えて、ようやく神様として復活したのですよ。 人々の手のひらに。
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