迷宮の中、闇の幼子

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   ──もしかしたら、他の人には見えていないのかもしれない。  頑張ればきっと報われると信じていた。上司にいびられることも、自分の親とさして変わらない年齢の女性社員に小言を言われてもそれも仕事だと思えば気にならない。そう、気にならないはずだ。  たとえ正当に評価されなくたって、それでいいじゃないか。もう少しだけ自分の心を柔軟にしなければいけない。涙が出るのはきっと条件反射だ。何を言われても傷つかないのが立派な強い社会人だろう。自分もそうなりたい。  別に私は辛いわけじゃない。この不景気な社会において、働ける場所がある私はなんて幸せ者なんだろう。そうやって、私は自分の心をごまかしていた。もう少しの辛抱だとか、もう少しで入社六年目だとか言い聞かせて。  私が働いていた会社は地下鉄を降りて歩いてすぐの場所にあった。大企業の子会社という看板につられて入社したが、新入社員は半年も経たずに出社拒否して来なくなり、派遣社員はわずか三日で辞めるという職場だった。  四月末、ついに同期入社の男性社員二人が辞めてしまい、私一人になった。支店に配属された他の同期はすでに辞めて、ずいぶん年月が経っていた。後から入ってくる新入社員も、やれ体調不良だのやれ身内の不幸だのでそのうち来なくなる。
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