3人が本棚に入れています
本棚に追加
「っ! 美味しい。本当に……お婆ちゃんの味です」
「それは良かった」
私がそう言うと、男性はホッと胸をなで下ろしながら嬉しそうに言う。
「しかし、珍しいな。ベーコンや炒り卵か」
「お婆ちゃんは……あまりお肉が好きじゃないみたいで」
「ベジタリアンか」
「ただ単純に嫌いなだけだと思うけど。でも、 私が来るのならと急いで買って用意してくれたのが『ベーコン』で、せっかくならって炒り卵も入れて……」
今にして思えば、祖母は私の事を大切にしてくれていた様に思う。それになのに、私は無理をして……そして死んだ。
「うぅ、ごめんなさい」
「いや、いい。お前さんがそこまで無理をしたのは他ならない家族の為であろう」
「はい。お婆ちゃんも入院しちゃって、お父さんの再就職も上手くいかなくて……」
「……あなたが家庭を支えていたのですね」
男性の優しい言葉を聞いた瞬間。私の涙腺はそこで崩壊した――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「ごちそうさまでした。とても美味しかったです。それと……すみません、取り乱しちゃって」
私は鼻を真っ赤にしながら、初対面の人たちの前で大泣きしてしまった事を今となって恥ずかしく思っていた。
「気にするな。天国に来た人間は大体さっきのお前さんみたいなもんだ」
「そうですよ。お気になさらないでください」
そう言って男性は穏やかな表情を見せる。
「……あの、また来ても良いですか?」
私がそう言うと、男性と猫は顔を見合わせ「はい、お待ちしています」とお互い笑顔で答え、私は『夢色』を後にした――。
最初のコメントを投稿しよう!