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梅雨 悲しみの鮭茶漬け
この天国でも「雨」というモノは降るし、そもそも『天気』というモノは存在している。
「今日はよく降りますね」
「……おい、また明後日な事を言っているぞ」
「おや、そうですか?」
「ここ最近はほぼ毎日降っているだろ」
そう、ニャン蔵の言うとおりここ最近はほぼ毎日雨が降っていて、逆に雨が降っていない方が珍しかった。
「ふむ、何せ私はあまり外に出ませんから」
「……」
店主はニッコリ顔で言っているが「もしそうなら毎日看板を出したり掃除をしたりているのは誰だ」とニャン蔵は言いたい気分になった。
しかし、言ったところで「そうですか」と言っていつものように笑顔を返されるだけである。
「今日はどういった方が来られるのでしょうか」
「さあな。ただ、誰も来ないという事はないだろうな」
「そうですね。出来ればこの間の方の様にある程度悟られた方が来られると……」
なんて話をしているところに、一人の少女が雨に濡れて泣きながらこちらの方へと歩いてくる姿が見えた。
それを見た瞬間、ニャン蔵と店主は「あ、面倒な事になりそうだ」とお互い顔を見合わせたのだった――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
少女がこちら側へ歩いていた事はすぐに分かり、面倒な事になるのは何となく分かりながらも、そのまま見て見ぬふりも出来ず、店主は店へと少女を招いた……のだが。
「ひっく……ひっく」
店主からもらったタオルを使って雨で濡れてしまった髪や顔を拭き終わっても、少女は一向に泣き止む気配がなかった。
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