梅雨 悲しみの鮭茶漬け

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「最初は全然何が起こったのか分からなかった。信号もちゃんと青になったのは確認したのに!」  悔しいという気持ちなのか、それ以外にも「家族にさよならも言えなかった」とか色々な気持ちで彼女の中で渦巻いているのだろう。  それはそうだ。  彼女はちゃんと交通のルールを守って横断歩道を渡ろうとしていた。彼女はいうなれば「被害者」である。 「……そうか」  だからこそ、そんな彼女に対してニャン蔵が言える言葉は少ない。  下手に元気づけるのも違うし、同意するのも違う。何を言ったところで「少女が死んでしまった」という事実は間違いないのだから。  しかし、いくら彼女が「被害者」だったとしても、相手をいくら恨んだとしても、彼女がここにいる時点で彼女が死んでしまっているのは事実だ。 「お前さんが泣くのも仕方がない話だろう。だが、お前さんが死んでしまったのは揺るがない事実だ」 「……」  いくら泣き叫ぼうがここにいる時点で彼女が生き返る事はもうない。生き返るのならここに辿り着くことは出来ないのだから。 「うっ、うっ……」  それは少女自身も分かっているのだろう。だからこそ、少女は行き場のない気持ちを吐き出すようにまた泣いた。 「あ、えと」 「……」  いつもはたとえタイミングが悪くても全然気にしない店主だったが、この時ばかりはさすがに「タイミングが悪かったかな」と思ったのか、お盆に『鮭茶漬け』を乗せたままオロオロとしており、いつもとは違う店主の表情にニャン蔵は思わず笑いそうになった――。 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆ 「あの、お金……それにタオルもありがとうございました」 「いえいえ、お礼が言えるとは偉いですね。お代の方は結構ですよ。サービスです」  少女は自分の『思い出の味』いや、最後の食べたと言う『鮭茶漬け』を食べると、どことなくふっきれたような表情になり、小さくお辞儀をすると、そのまま店を後にした。
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