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夏 思い出のアイスキャンディ
「……暑い」
「やはり猫は暑いですか。毛が」
「これほどまで自分の毛を憎んだ事はない」
「そうですか」
この『天国付近』は、現世と近い位置にあるためなのか現世の「四季」の影響を受けやすい。それ故に、現世では今どういった季節なのか分かるのだけれども、やはり猫にとって『夏』は天敵の様だ。
「水浴びは……無理ですね」
店主がサラリと「水」という単語を言っただけで、ニャン蔵は毛を逆立たせた。それくらい「水」は嫌いらしい。
「うぅ。しかし熱がこもるのは嫌だが、水を被るのはもっと嫌だ」
「そうなると、冷たいモノを食べる……ですかね。でも、食べ過ぎるとお腹を壊しますし」
一応ここは『天国』ではあるものの、あまり現世と変わりはない。
どこか違いがあるとすれば、それは「年を取らない」とか「仕事がない」とかそういった点くらいだろう。
「こういった暑い日は……多いだろうな」
「そうですね」
そう、天国でここまで暑いのだ。現世ではもっと暑いだろう。そうなると、天国に来そうになる人や来てしまう人が多くなる傾向にある。
「どうされました?」
「いや、お客が来たらしい」
そう言うニャン蔵にならい、店主も少し目を細めて遠くを見ると……確かに一人の男性がこちらに向かって歩いてくる姿が見えた――。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……」
最初、この場所がどこか分からなかった。ふと気がつくと俺は街の中の様な場所に立っていた。でも人通りは全くないに等しく、俺は一人だった。
正直「ここはどこだろう」という気持ちは……なかった。何となく「ここが天国というところだろうか」という気持ちの方が強かった。
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