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なぜなら、俺はついさっきまで病院にいて「そろそろ危ない」と家族に説明されていたのを知っている。
ただ、俺が「そう言われているのを知っている」と説明をしている医師も家族も知らないだろう。
それくらい、その時の俺はそれこそ「意識があるかも分からない」という状態だったのだが、そんな状態の俺に対して家族は何気ない話をいつもしてくれていた。
俺はいつも何も反応出来ない自分に「不甲斐ない」とか「申し訳ない」という気持ちと「嬉しい」という気持ちでいっぱいだった。
「……」
正直、俺は家族に「何か出来たのだろうか」そんな気持ちに苛まれる。
「いけないな」
小さく呟きながら空を見上げた……のだが。
「それにしても……暑い」
そういえば、今の季節は「夏だったか」とお見舞いに来てくれていた家族の一人がそんな事を言っていた事をふと思い出した。
しかし、まさか天国に来てまで暑さなどを感じる事が出来るとは思いもしなかったから、俺は思わず笑ってしまう。
「……ん?」
ふと気がつくと、どうやら俺は結構歩いたらしく、目の前に看板があった。
「夢色?」
名前と言い看板の雰囲気と言い「定食屋」の様な和風な雰囲気を感じつつ、看板に書かれた矢印の方向を見ると、そこには確かに看板と同じ『夢色』と書かれた暖簾がかかっている。
「……」
正直、空腹よりも暑さの方が勝っていたが「建物の中に入れば少しは涼む事が出来るだろう」と考え、そのまま扉に手をかけた――。
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