夏 思い出のアイスキャンディ

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「……ん?」  ふと気がつくと、どうやら俺は結構歩いたらしく、目の前に看板があった。 「夢色?」  名前と言い看板の雰囲気と言い「定食屋」の様な和風な雰囲気を感じつつ、看板に書かれた矢印の方向を見ると、そこには確かに看板と同じ『夢色』と書かれた暖簾がかかっている。 「……」  正直、空腹よりも暑さの方が勝っていたが「建物の中に入れば少しは涼む事が出来るだろう」と考え、そのまま扉に手をかけた――。 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆ 「いらっしゃいませ」 「こっ、こんにちは。一人なのですが」  店に入り、真っ先に声を俺にかけたのは一人の若い男性。 「それではお好きな席におかけください」  そう言われてすぐ近くの適当な席に座る。 「……」  この後は注文になる……はずのなのだが、どこにもあるはずのメニュー表がない。仕方なく辺りを見渡すが、それらしきモノはどこにも見当たらない。 「くぁ」  しかも、すぐ隣のイスには三毛猫が呑気にあくびをしている。 「あの、すみません」  一体何なんだこのお店は……と思いつつ男性が戻ってくるのを待って声をかけると……。 「今日は暑いですよね。今すぐお冷やをお持ちしますので」  男性はこちらの言いたい事とは全く関係のない事を言って笑いかけると、そのまま言ってしまった。 「いや、そうじゃなくてだな……」 「あいつは基本的に人の話を聞かない。聞こうとしないヤツだぞ」  ふと声が聞こえ、その方向へと視線を向けると……。 「なんだ」 「ねっ、猫が喋っている」 「ふむ、驚いてはいるが大声は出さないか」 「……」  にわかに信じがたいが、どう見ても三毛猫がしゃべっている。しかし、ここで「ああ、ここは天国だから動物も喋れるのか」なんて思ってしまった。 「どう思おうが勝手だが、ここは基本的に『オススメ』しかない」 「なるほど、つまりメニュー表の意味がない……と」  納得した様にそう言うと、猫は「そうだ」と答えた。 「いや、でも……」 「お待たせしました!」  いくら『オススメ』しかないとは言え、さすがに何も知らないのはどうかと思い、猫にそう言おうとしたところで……男性が奥からひょっこり現れた。 「……」  俺は「一体何を持って来たんだ?」と男性が差し出したモノを見ると……それは棒付きのアイスキャンディだった――。
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