春 祖母の野菜炒め

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春 祖母の野菜炒め

「ふぅ」 「おはよう、店主。いつも精が出るな」  そう言いつつ軽く体を伸ばしているのは、ここ『夢色』にいる三毛猫の「ニャン蔵」だ。 「ふふ、もう小春日和の様ですから。こうして掃除しおかないと」 「ふむ。だが、こういった桜も季節の風物詩というモノではないか?」 「それはそれ。これはこれというヤツです」 「……そうか、人間は面倒だな」  面倒くさそうな顔をしてニャン蔵はお店に戻る。 「ふふ、毎回思いますが。この桜は一体どこから来るのでしょうね」  ここはただの路地。その上、桜の木なんてない。それなのにも関わらず桜だけでなく季節に応じた若葉や落ち葉。雪なども降る。 「確かに、季節の風物詩と思えば……風情がありますね。さて、それでは」  気を取り直して店主はほうきを戻しに一旦店に戻り、そして看板を外に出した。 「今日はどんな出会いがあるでしょうか。楽しみです」  青く広い空を見上げ、店主はそう言うと楽しそうに軽く鼻歌を歌いながらお店に戻った――。 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆ 「はぁ」  小さくため息をつく私の目の前に広がるのは、見覚えのない古びた路地の様な場所だった。 「私が生活していたところにこんな場所はなかったから……ここはやっぱり『夢』の世界なのかなぁ」  なんて冗談めかして独り言を呟くけど、実際のところは何となく「自分は死んだ」と察している。  だって、正直自分はいつ死んでもおかしくない状態だったから。
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