春 祖母の野菜炒め

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「にゃー」 「……うわっ! って、え。猫?」  そんな事を思いつつ、その場に突っ立っていた私の足元に一匹の三毛猫がすり寄っていた。 「……」  とても可愛らしい猫に、私はおずおすと手を伸ばす。 「フッ、フワフワ!」  猫の毛があまりにもフワフワで、私は思わず感動した。  こうして触った感触があるところを察するに、やはりここは「夢ではない」と感じる。そして、それと同時に「死後世界ってこんな感じなんだ」という気持ちも感じた。  人によっては取り乱すところだろうけど、私は何となく察しがついている事もあって、特に取り乱しはしない。確かに、未練がないと言えば嘘にはなるけど……。 「……」  死んでしまった今にしてふと「一人暮らしを始めたらペットを飼いたいなぁ」なんて思っていた時期の事を思い出した。  結局、仕事が忙しい事もあって「たとえ飼ったとしても世話が出来ない」と思って飼う事はなかったけど。 「あ」  少し触っていると、猫がそのまま歩き出した。 「触らせてくれてありがとう」  猫にそう言うと、なぜか猫は私の方をジーッと見つめて動かない。 「??」  その様子に「どうしたんだろう?」という気持ちだったけど、その視線がどうにも「付いて来い」と言っている様に見えて、特に行く予定もなかったので私はそのまま猫の後を付いて行く事にした――。 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆ 「……ここ?」  歩く事に疲れたのか、結局猫を抱えた状態で私は猫が案内したかったと思われる『夢色』と暖簾が書かれているお食事処の前に立っていた。 「ニャー」  私の問いかけに答えるような鳴き声をしたので、どうやらここで間違いないらしい。 「お食事処?」  確かに、さっき猫を触った時に普通に触った感触があったから、夢の中ではありえない「お腹も空く」という事もあるのだろう。ただ、残念ながら今はまだお腹は空いていないのだけれど……。
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