春 祖母の野菜炒め

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「あ、ニャン蔵。どこに行っていたのですか」  店の扉が開き、一人の男性が声をかけて来た。 「おや、こんにちは」  男性は二十代後半、いや三十代くらいで髪は染めているのか少し茶色っぽい。挨拶をされただけなのに、声色は穏やかで優しい。 「こっ、こんにちは」  生前、仕事人間だった私はあまり異性の耐久がなく、こうして声をかけられただけで思わず声が高くなってしまう。 「ニャン蔵を保護してくださったのですか。ありがとうございます」  男性はそうお礼を言うと、私が抱きかかえる猫に向かって声をかけると……。 「お客を連れて来ただけだ。保護されたのでなく、保護をした……の間違いだぞ。店主」 「!」  突然男性とは全然違う声に、私は思わず目を見開いて驚いた。なぜなら、どう考えても今の声はこの猫から聞こえてきたからだ。 「おや、そうでしたか」  しかし、普通であれば「猫と会話が出来ている」というありえない状況なのにも関わらず、男性は全く気にせず猫と話している。 「あ、あの」 「ああ、すみません。立ち話もなんですから、どうぞお店の方へ」 「いや、あの。そうじゃなくて!」 「諦めろ。店主は人の話を聞かないマイペース人間だ」  猫の言葉に私はガックリと項垂れつつもどこかに行く予定もなかったので、男性が「どうぞ」と手招きしている店内へと足を踏み入れた――。
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