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「……」
「そうか」
私の話を黙って聞いていた猫は聞き終わると、小さくそう呟いた。
「ところで、なんで私に声をかけたの?」
「何。あの場で立ち止まっていると、後がつかえてしまうからな」
「え、亡くなった人って列で移動しているの?」
「ここまで来れば列で移動する事はないが……あそこはいわば『天国の入り口』だからな」
「へぇ、そうなんだ」
「たまに足を踏み外すヤツもいるが、そういうヤツは大概生き返るヤツだな。本来、あの道は足を踏み外しやすく造られている」
「ふーん」
ただ、猫曰く「歩いている人間は意識がないのと変わらないから、意識が戻るのは足を踏み外して生き返った後か天国に着いた辺り」らしい。
「それにしても、私。今お腹空いていないんだけど」
「そもそも、天国に来た時点で多少の空腹を感じるモノだ。ただ、お前さんは今までの生活の中でたとえ空腹だったとしても、限界まで耐えていたのではないか?」
「……」
それは否定出来ない。私の中で『食事』と言ったら「何かをしながら片手間で食べるもの」という印象しかなかった。
「せっかくの機会だ。ゆっくりと食事を楽しめばいいさ」
「……」
猫のその言葉を聞き、私は「最初にお婆ちゃんに会った時。そんな事を言われたっけ」と父方の祖母を思い出していた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「お待たせしました『オススメ』の料理です」
「おっ、来たな」
そう言われて店主が持って来たのは『野菜炒め定食』だった。
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