水曜日の指定席

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 水曜日の放課後、当時小学一年生だった僕は、帰りの挨拶が終わると同時に走り出していた。誰かが「今日遊ぼう」って声をかける一瞬の隙も与えない素早さで学校を飛び出し、家へと駆け戻る。 「ただいま! お母さん、百円ちょうだい!」 「おかえり。先に手洗いうがいしてー」  ランドセルを放り出す僕に、母はいつも手洗いうがいをしなさいと言った。僕は毎回、手洗いうがいなんて、どうせまたすぐに家を出るのに無駄だと感じながらも、母の言う事を聞いていた。ここで「すぐ出かけるからしなくていい」なんて返事をしようものなら、その百倍位のお小言が帰ってきて、余計に時間がかかると知っていたから。 「早く、早く、ちょうだい!」 「はいはい。わかったわかった、ちょっと待って」  母がお財布から百円を取り出すその僅かな時間さえもどかしく思い、心はすでに走り出していた。 「ほんまに、圭太はたこ焼きが好きやねんなぁ」 「うんうん、だから早く!」  百円を貰うと、右手にしっかりと握りしめて走り出した。あの小さなお店めがけて―――。
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