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 甲の上や踵の上の方に花や蝶々結び(リボン)の装飾がついた靴を中西が指す。品を失わないのはさすがだが、目を瞬かせたくなる色味が多い。 「それとも普段づかいか? よく出会うのならそれもいい。だんだんその身体に馴染んでいく様を見られるのだと思うとたまらないね」 「たまらなくないよ」  人を自身の(へき)に巻き込まないでほしい。追い払うように手を振ると、中西はそうかい? とまた靴の群れに目を戻した。  何を贈るかが相手との親しさを測るものさしになることは知っている。社交の場ならなおさらで、真鶴(まつる)様――僕が働く家の主人だ――に言われ、その選定や管理にも携わってきた。けれどそれが個人間にも及び、かつ靴がそれなりの上位に食い込んでいるとは思わなかったのだ。  中西は気の置けない仲で物を見る目はいい。お使いや同行でならいくらでも訪れたことのある百貨店でも、一人で女性向けの品を見るとなるとわけが違う。異物になる自身が容易に想像できて、知恵袋と盾として中西を連れ込んだのだ。  しかしもう少し上手く誤魔化したら良かったのかもしれないと後悔している。  靴を贈りたいから付き合ってくれ。そう伝えた時の中西のはしゃぎ様は今思い出しても恥ずかしい。 「君が? 靴を? いや、そうか」
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