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 紗奈はメニューをまた自分のところに引き寄せる。 「じゃあ、ふわとろオムライスでいいですか?」  メニューを指すと、律希は 「どうして?」  と理由を聞いて来る。紗奈は笑って答えた。 「私が食べたいからです」  もし他に理由があるとすれば、食欲が無いと言い張る一ノ瀬さんでも柔らかいふわっとした口当たりのメニューなら楽に食べられるかな、と思ったからだ。でも、一番の理由は、今言ったそれである。  紗奈は手を挙げて店員を呼び止め、注文を済ませる。その時の店員の帽子を 見て、紗奈はまたしみじみと、 「クリスマスですね……」  と呟いた。すると、律希が「それ何回言うの?」と少し呆れた様に笑う。 「私、この季節が一番好きなんです。なんか、無条件にわくわくしません?」  同意を求めるように紗奈は言う。しかし律希は曖昧に答えてから、逆に問いを返してきた。 「分かんないけど……紗奈は、何か特別な思い出でもあるの?」 「特別な思い出……えっ、それが無いとクリスマスにわくわくしちゃいけないんですか?」 「そういうつもりで言ったんじゃ……」  紗奈の反撃に、律希は呆れたように笑った。 「まあ、それが川野のいいところだと思うけど」 「どういうところ……?」  急な褒め言葉に、紗奈は戸惑いを隠せない。しかし、律希は首を振って笑うだけだった。 「……一ノ瀬さん、なんか今日意地悪ですね」  紗奈が言うと、律希は、 「疲れてるからかな」 「何ですかそれ。そんなの言い訳になりません」 「でも僕は今、テンションがおかしい自覚がある」  と話す。最後に言ったことに関しては紗奈も納得してうなずいた。 「確かにいつもの一ノ瀬さんならしない言動ばっかりしてますね」  明らかに普段の律希よりも、今の彼の言動は明るい。紗奈まで楽しくなってしまって、つい口調がライトになる。 (私もテンションおかしいな)  紗奈は落ち着こうと努めたが、律希は特に気にしていないようだった。
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