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Ⅰ
12月24日の11時12分
クリスマスまで後1時間を切った夜だった。気温は零度を下回り、気象予報士はホワイトクリスマスを予報している。
そんな寒さの中でも、最城の街を行き交う人の数は少なくない。暖色系のマフラーやコートに身を包んだ人々や、赤いサンタ服の店員たちが行き交う様子は、見ていれば暖かさを感じた。
街を彩るイルミネーションが、夜を明るく照らす。
「もう夜遅いのに……。やっぱり、クリスマスイブの夜は特別ですね」
川野紗奈は、息で白くなる空気を見つめて言った。
「何か、寒くても幸せな感じがします」
「……そうだね」
隣を歩いている先輩、一ノ瀬律希が、少し間をあけてから答えた。
紗奈は、返答の遅い先輩が心配になって、
「一ノ瀬さん、寒いんですか?」
と聞く。
彼は長い紺色のコートを羽織っているが、それは少し薄手に見えた。
「別に寒くは無いけど……」
信号が赤になり、律希は立ち止まった。
「なんか気持ちが下がってる。少し疲れたみたい」
その言葉に、紗奈は納得する。昼頃に舞い込んだ修正作業は比較的小さかったが、それでも2人に残業を強いたのだ。
「お疲れ様でした、一ノ瀬さん」
紗奈は優しい声で言う。律希は、大通りの向こう側を見ながら、「川野もね」と言った。
信号が青になる。
渡れば、最城駅だ。
しかし、律希は直ぐに渡ろうとしない。
「一ノ瀬さん? 青ですよ」
紗奈が律希を見上げて言う。すると律希は、
「川野って、この後用事ある?」
と聞いて来た。
「無いですよ。もう、12時だし」
「じゃあ、夕飯食べてから帰らない? 家帰ってから用意するの面倒だから」
律希の誘いに、紗奈はパッと表情を輝かせた。
「そうしましょう!」
迷うことなく答えると、律希は遠慮がちに、
「本当に大丈夫? 無理に合わせなくてもいいんだよ」
と確認してくる。
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