571人が本棚に入れています
本棚に追加
ーーーーーーーーーー4
「そう、俺ん家」
「いやいやいやいや、行きません!!」
いきなり男の家に行くとかハードルが高すぎる。
ましてや要注意人物男。松田くんの家に入ったらどうなるか分からない。さっきのライオンみたいに、た、食べられちゃうかも……
「でも俺もう夜ご飯の下拵えとかしてきてるし、美味しいワインも用意してるのになー」
「……夜ご飯に、ワイン……」
「そう、アヒージョとか作って水野さんをおもてなししようと思ってたのになー」
「くっ……」
なんたる誘惑。美味しそうな夜ご飯にワインのセット。食べたい……飲みたい……
「来ない?」
(そんな残念そうな顔で……こ、子犬か……この男は子犬なのか……)
「……行く」
食欲に負けた、そう食欲に負けたのだ……仕方ない。
人間の三代欲求の一つなんだから。うん、仕方ない。
そんなやり取りをしていたらあっという間に松田くんの家に到着していたらしい。車を駐車場に止め部屋に案内される。
松田くんの住んでいる部屋はアパートの二階角部屋だった。
ガチャっと鍵を開け「どうぞ」と松田くんが招き入れてくれ「お邪魔します」と少し警戒しながら松田くんの部屋へと足を踏み入れた。玄関はスッキリ片付けられていて無駄な靴などは出ていない。
脱いだ靴を揃えリビングに向かう松田くんの後を追う。
「散らかってるけどその辺に荷物置いてソファーでくつろいでてください」
「あ、ありがとう」
言われた通り二人掛けソファーの下に荷物を置きソファーに腰を下ろす。男の人の部屋に入るのは人生で初めてだ。緊張する……
松田くんの部屋は飾り物などなく至ってシンプルな部屋だった。
リビングは白い床にグレーのラグ。ネイビーのソファーにガラスのローテーブル、その対面にテレビが置かれている。ミニマリストなのだろうか、それしか無い。
カウンターキッチンの方に視線を向けるとネイビーのエプロンを身に纏い夕食の準備をしてくれている松田くんとパチリと目が合う。
「な、何か手伝おうか?」
「水野さんはお客さんなんだからテレビでも見てゆっくりしてて下さい」
「そう……じゃあお言葉に甘えてテレビつけます」
確かに使い勝手の分からないキッチンで手伝うと、かえって足手纏いな気もするので、お言葉に甘えてテレビのリモコンに手を伸ばす。
とは言え見たいテレビが特にある訳ではないので適当にお笑い番組をつけた。
キッチンからとてもいい匂いが漂ってきてお腹がグゥ~と鳴った。聞こえちゃったかな!? と焦ったが換気扇の音の方が多分大きいだろうと一安心。
男の人が料理をする所なんて滅多に見ないので新鮮だ。ついテレビよりも松田くんの方を見てしまう。
(仕事も出来て行動もスマートで料理できるってハイスペックだな……)
「水野さん、そんなにお腹空きました?」
ニヤニヤ笑いながらフライパンとフライ返しを両手に持つ松田くんがこちらを見ている。
「んなっ! 違うわよ! 料理できて凄いなぁって見てただけよ!」
「俺と付き合ったら毎日美味しいご飯作ってあげますよ?」
毎日美味しいご飯……なんて魅了的な言葉なんだろう。つい、お願いしますと言いたくなる。
「くっ……遠慮します」
「ははは、あと少しで出来ますから」
ズラリとダイニングテーブルに並ぶ料理を目の前にし、お腹がグゥと鳴らないか心配で、腹筋に力を入れてみる。
「水野さんワインでいいですか?」
「い、いいわ、ありがとう」
コポコポとグラスに赤ワインを注いでくれたが、それは私の目の間に置かれ松田くんのグラスには透明な液体。
「あれ、松田くんは?」
「俺はノンアルコールで、帰りに水野さんを自宅まで送り届ける使命がありますからね」
「え……いいわよ、電車で帰るし」
「いーんですよ、俺がそうしたいの」
「あ、ありがとう」
頂きますと両手を合わせ松田くんの作った料理を口に運ぶ。
「美味しい! これなに? 餃子……?」
餃子の皮にチーズやトマトが入っていてパリパリの羽付餃子のような料理がワインに良く合う。
「イタリアン餃子的な奴ですよ、チーズがパリパリで美味いですよね」
「本当美味しいっ」
松田くんの作った料理はすべて美味しくて、海老とマッシュルームのアヒージョも最高だった。つい料理が美味しいのと緊張とで、ワインが進んだ。
ワインが進んで、進んでなんだかフワフワ良い気持ちになってきた。
最初のコメントを投稿しよう!