少女漫画のようには上手くいかないですー1

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少女漫画のようには上手くいかないですー1

   昨日の日曜は一人部屋に篭り土曜の事を思い出してはベットの上でジタバタ、思い出しては床でゴロゴロを繰り返しいつの間にか月曜の朝を迎えていた。  長年の週間とは恐ろしく、いつもより遅く行こうと思っていても体は勝手に動き、いつも通りの時間に会社に着いてしまっている。  やはり松田くんは一番に出社して社内の整理整頓をしてくれていた。  私に気づいた松田くんは子犬のような可愛らしい笑顔で私に笑いかけてくれる。 「水野さんおはようございます」 「お、おはようございます」 「昨日は何してたんですか?」 「へ、部屋でゴロゴロしてたわ」 「なーんだ、じゃあまたデートに誘えばよかったな」  ツンと唇を尖らせて残念がる松田くんに思わずキュンとしてしまった事は絶対にバレたくない。 「んな!! お詫びデートはもう終わったでしょ!」  段々近づいて距離を詰めてくる松田くんのせいで息をするのも苦しい、酸素濃度がどんどん薄くなっているのだろうか、心臓がドキドキする。 (お、落ち着け……落ち着け私) 「……へ?」  コツンと私のおでこと松田くんのおでこがぶつかり合ってるのは気のせい? 目の前に松田くんの眼鏡が近距離で映し出される。 「ん~熱はないみたいですね、水野さん顔真っ赤ですよ?」 「ひゃっ……ね、熱なんて無いわよ! 暑いだけだからっ!!」  ドンっと松田くんを突き放し急いで自分の椅子に座る。  顔が赤くなってたなんて……あり得ない。ちょっと意識してしまっただけだ。そう、ちょっとだけ…… 「ねえ、水野さん」 「な、何」 「こっち向いてください」 「嫌だ」 「照れてます?」 「照れてない!!!」 「んにゃっ」  両頬を捉えられグイッと松田くんの方に顔が向く。 この両手の犯人はもちろん松田くんだ。 「にゃ、にゃにふんのよ」  確実にタコみたいな不細工な顔になっているし、上手く喋れない。 「水野さん、好きだよ」 「……」  途端に足の爪先から頭のてっぺんまで電撃が走ったような感覚になる。  身体が、頭がビリビリする。 「はい、お終い」  松田くんがパッと両手を離した途端ドアが開き他の社員たちも出勤し始めた。  松田くんが触っていた両頬が燃えるように熱い。  好き……か……  私なんかのどこがいいのか理解しかねない。 松田くんの前で酔っ払って醜態だって晒してるのに……  そんなことを考えながら仕事をしていたからか小さなミス。パソコンが固まってしまった。 「あ~やっちゃったぁ」 「水野さんどうかしました?」 「ん、なんかどっか変なところ触ったのかパソコン固まっちゃって」  松田くんはスッと立ち上がり私の背中の真後ろに立つ。「ちょっと見ますよ」と言うとパソコンを弄り始めた。 (せ、背中……顔も近すぎるっ、これって漫画とかでよくある光景じゃない……)  まさか自分にもこんな漫画みたいな出来事が起きるとは思いもしていなかった。過剰に反応すると松田くんと思うツボだと思い、背中に感じる松田くんの熱や、喋るたびに耳や頬に当たる吐息を必死で堪え平然を装う。 「ん、これでエンター押せば大丈夫」 「あ、ありがとう」 「俺パソコンは強いんですよ、また何かあったら言ってくださいね」 「頼もしいわね」 「後でお礼下さいね」 「は!? あげないわよ!」 「可愛い」 「も、もう!!!」  ボソッと耳元で囁かれゾクゾクと背筋が震える。  ニヤニヤ笑いながら「残念」と松田くんは自分のデスクに戻った。  でもまあ、コーヒーくらいはご馳走しようか……  休憩時間に自動販売機に向かいブラックコーヒーを一本購入し、部署に戻る。  自分はブラックコーヒーは飲めない。苦すぎる。 松田くんのためにブラックコーヒーを買った。確かいつも飲んでいるのはブラックだったような気がする、曖昧な記憶だが…… 「松田くん、さっきのお礼にどうぞ」  スッと松田くんの目の前に缶コーヒーを置く。 「俺がブラック飲んでるの知っててくれたんですね、嬉しいな」 「なっ、たまたまよ! さぁ残りの仕事もさっさと終わらしちゃいましょう!」 「はい」  松田くんのくしゃっと笑って喜んだ顔が頭から離れない。 コーヒーをあげただけなのに、あのクシャッとした笑顔がとても可愛い……そう思ってしまった。 (どうしちゃったのかしら、私……)
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