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「ちょっ、松田くん大丈夫なの!?」  慌てて松田くんの元に駆け寄ると「だ、大丈夫です」と小さな声で答えたが明らかに大丈夫ではなさそうだ。とにかくベットに連れて行こうと松田くんの脇から腕を通しなんとか起き上がらせゆっくり寝室に向かう。 「水野さん……ごめんなさい」  ぐったりしているくせに何処までも気を使う男だ。 「いいのよ、こんなになるまで仕事をさせちゃった上司の私の責任でもあるわ」  ベットに着くなり松田くんはドサっと倒れ込んだ。 「お粥作ってくるからキッチン借りるわよ」 「あぁ、はい……」 「しばらく寝てなさい」  人の家で料理をするなんて初めてだ。むしろ男の人の為に料理をするのが初めて。料理といってもお粥だが……来る前にスーパーに寄っておいて正解だった。コトコトとご飯を煮込み溶き卵を流し込む。 (少しは食べれるかしら……)  出来上がったお粥を寝室に運んだが松田くんはスースーと寝息を立てて寝ていた。額にジワリと汗をかいていたので洗面所からタオルを拝借し、タオルを水で濡らしてから松田の汗を拭うと気持ちが良かったのか少し松田くんの表情が和らぐ。  和らいだ表情がなんだか険しくなってきた。どうしたんだろう? 「んん……行かないで……」 (ん? 寝言?) 「っつ……待ってよ……」  松田くんの目尻からツーっと涙が流れた。顔を顰めて苦しそうにしている。そっとタオルで涙を拭き取り、私は松田くんの手をギュッと握りしめた。何の夢を見ているのかは本人にしか分からない、けれどきっと悪い夢を見ているんだろう……大丈夫だよ、大丈夫だよ、と何度も心中で唱えながらギュッと松田くんの手を握りしめた。  どうしてそんな行動を取ったのか自分でも分からなかった。 「んん……」 「おはよ、水野さん」 「ん、おはよ……んあ!?」  松田くんの手を握っていたら段々眠くなっていつの間にか寝てしまっていたみたい。目を開けた瞬間マスクをしている松田くんの顔が目の前に映ったのでびっくりしすぎて変な声を出してしまった。 「俺の手、握っててくれたんですね……」 「え!? あ、うん、なんかうなされてたから……」  スッと松田くんの手が私の頬に伸びてきて頬を包み込まれた。  熱があるからかいつもより熱く感じる。 「えっ、な、何っ」 「はい、風邪がうつるといけないからマスク」 「あ、ありがとう」  マスクをつけると、また松田くんの手が私の頬を包み込み、マスク越しでも松田の熱が伝わってくる。  ジッと見つめられると吸い込まれそうな黒い瞳に捉えられて目を逸らすことが出来ない。松田くんから感じる熱がジリジリと温度が上がり、空気がどんどん薄くなっていくように息をするのも苦しいくらいだ。 「水野さん……ありがとう」 「い、いいのよ」  そう返事をするのが精一杯。  ゆっくりと近づいてくる松田くんの顔から視線を逸らす事が出来ずマスク越しに私達はキスをした。 「はは、今流行りのマスクキス出来ちゃいましたね」 「なっ、何言ってんのよ!」  不思議と嫌ではなく自然と身を流れに任せてしまったのは何故だろう……  二人でクスクス笑いながら言い争っていると急にピンポン、ピンポン、ピンポンとインターホンが何度も部屋に鳴り響く。 「あの、出た方がいいんじゃない?」 「んー、どうせセールスかなんかですよ、今は水野さんとの時間だから……あの、お粥食べてもいいですか?」 「勿論、今温め直すからね」 「ありがとうございます」  お鍋に戻し弱火で温め直す。寝室にいる松田くんの元へ運ぶとマスク越しでも分かるくらいの笑顔で喜んでくれた。  蓮華ですくって一口、口に合うだろうか…… 「すっごく美味い! 水野さんの手料理食べれるとか風邪ひいて得したなぁ」 「良くない! でも口に合って良かったわ」 「凄く美味しいです、いいお嫁さんになりますね」 「ったく何言ってんの、さっさと食べて薬飲んで寝なさい」 「はい」  松田くんはお粥を一粒も残さず綺麗に平げた。食後の薬も飲んだ所を見届けたので、帰る支度をする。 「じゃあ松田くん、お大事に」 「本当にご迷惑をお掛けしてすいませんでした……」 「何言ってんの! 私が風邪ひいたらカバーしてもらうんだからお互い様よ、じゃあまた」  靴を履き玄関を出る。 「開いた!! やっぱり大雅いたんじゃん!!」 「マコト!? お前何してんだよ!」  大雅?マコト?この女の人は誰? 突然の出来事に思考回路が回らない。心臓がバクバクと動く。うまく息ができない。心臓を誰かに握り潰されているのだろうか、苦しい、苦しい、苦しい。  
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