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   松田くんの車に乗りまずはDVDを借りに行く事にし、近所のレンタル屋さんに寄り二人でDVDを選ぶ。 「松田くんはどんなのが好きなの?」 「ん~俺はホラーとかお笑い系ですかね」 「ホラー……、じゃあお笑いのDVDを借りましょ」 「真紀はいつもどんなの見てるの?」 「私は恋愛映画とかかな、ってもあんまり見ないんだけどね」 「じゃあ今日はお笑いと恋愛映画を借りて帰りましょっか」 「そうね」  お笑い総特集のDVDと、つい最近レンタルされた純愛物語の恋愛映画を借りた。  そのままスーパーに寄り食材とお酒をたんまり買い込み松田くんのアパートへ向かった。 「お、お邪魔します」 「くつろいでてください、俺ササっと昼ごはん作っちゃうんで」 「え、私も手伝う」 「じゃあ今日は一緒に作りましょうか」 「うん」  買ってきた食材とお酒を冷蔵庫にしまい、簡単にパスタを作る事にした。  私がパスタを茹でている間に松田くんがパスタの具材を用意してくれ、あっという間にトマトとツナのパスタが出来上がった。  ダイニングテーブルにパスタを並べ、赤ワインをジンジャエールで割ったカクテル、『キティ』をグラスに注いだ。 「ん~、やっぱり松田くんのご飯は最高~」 「夜ご飯も任せてくださいよ」 「付き合ったら毎日美味しいご飯作ってくれるって言ってたものね」 「ちゃんと覚えてたんですね」  ニヤッと松田くんに見られ、松田くんとの会話を覚えているとバレて恥ずかしくなる。 「ま、まぁね」  けれど嬉しそうな松田くんを見て私も嬉しくなる。相手が嬉しい気持ちになると、自分も嬉しい気持ちになる……そんな幸せな気持ちがあるなんて今まで知らなかった。  食べ終わったお皿を二人で並んで洗い、借りてきたお笑い総特集のDVDを見ることにした。  おつまみに買ってきたポテトチップスや柿の種、サキイカなどをローテーブルに広げ缶チューハイで乾杯する。凄くおじさんくさいおつまみの種類だがまたそれが良い。  ふとローテーブルの上に置かれている松田くんのお洒落な眼鏡が目にはいる。  眼鏡をかけている松田くんも好きだが、松田くんの綺麗な黒い瞳が私は好きなのでコンタクトの時の松田くんも好きだ。ソファーの隣に座り彼の横顔を眺める。缶チューハイに口をつけゴクンと一口飲むと動く女の私にはない喉仏、長い睫毛と鼻筋のスッと通った綺麗な横顔に釘付けになってしまう。 「ん?」 (やばっ、バレたっ……) 「いや、今日は眼鏡じゃやいんだなって思って」 「あぁ、今日はコンタクトにしたんです、眼鏡だと邪魔でしょ?」 「邪魔?」  松田くんの雰囲気がガラリと変わった。  そう、キスをする直前のような、真剣な瞳に飲み込まれそうになる。  ゆっくりと私の頭の後ろに松田くんの大きな手が周り段々と綺麗な顔が私の顔に近づいてくる。 「あ……ン……」  たっぷりと私の唇を堪能した彼の唇は満足そうに離れていった。 「キスするのに邪魔でしょ?」 「なっ!!」  ふいっと顔を背けた。いかにも私は照れていませんと装いテレビを見ながら缶チューハイに口をつける。 「真紀」  耳にダイレクトで届く松田くんの優しい声がゾクッと身体を振るわせる。 「なっ、何!?」 「ははは、もう一本飲む? って聞こうとしただけですよ」 「あ、飲む……」 「持ってきますね」  つい緊張からかゴクゴクと飲み過ぎてあっという間に二本目に突入。  時間が経つと共に緊張もほぐれてきてDVD中盤には松田くんと私の笑い声が部屋に響いた。 「そうだ! 私、松田くんのアルバムとか見たいな」  やっぱり家に来たら昔のアルバムを見るって少女漫画とかドラマでは定番だと思い出し唐突に松田くんに聞いてみた。 「俺のアルバム? あんまり写真ないんですよ、学校の卒業アルバムくらいしか」 「全然いいよ、見せて」 「持ってくるから待ってて」  松田くんは両手に三冊のアルバムを抱え戻ってきた。 「え~、小学生の松田くん無表情だけど可愛すぎるっ」 「そう? 普通の小学生でしたよ」  小学生の松田くんは小学生らしからぬ無表情。大人の証明写真のような表情で写っていた。それでも可愛いと思ってしまう私は多分かなり松田くんのことが好き。  中学生の松田くんは絶対モテたであろう爽やかな笑顔と清潔感のある短い髪型。学ラン姿が新鮮で、この頃の松田くんにも会いたかったなぁ、なんて思ったりしてしまう。  高校生の松田くんのアルバムを開くと今より少し幼いくらいで、変わらずイケメンだ。でも何となくだが見たことのある顔つき。でも松田くんの事を初めてみたのは会社だし、気のせいだろう。  どのアルバムの松田くんもやっぱり私の好きな綺麗な真っ黒の瞳には変わりなかった。 「松田くんのご両親は何してるの?」 「俺、施設育ちなんです、詳しくは知らないんだけど母親は俺を産んだ後失踪したとかで、誠とも施設で知り合ったんですよ」  ドカンと大砲で撃たれたかのような衝撃の一言になんて返事を返したらいいのか分からなかった。  大変だったねって言うのがいいのか、でも施設育ちだから大変とは限らない訳であって、安易に大変だったね、辛かったね、と言うのはなんか違う気がした。それでもなんて松田に声をかけるのが正解なのかパッと浮かばず言葉が出なかった。  笑って誤魔化して話してくれているように私には見えて、思わず何も言わずに松田くんの事が愛おしくて抱きしめていた。 「真紀……?」 「えぇっ、あ、ごめん! つい、なんとなく……」  パッと両手を離しアルバムに視線を戻す。 「施設育ちって言ったから心配してくれました?」  図星だ。  でも心配とはまたちょっと違うような。 ただ松田くんの事が愛おしい、と思っただけだった。 「心配って言うか、何というか、無性に抱きしめたくなったと言うか……」 「なにそれ、嬉しすぎるじゃないですか。でもまぁ施設って言ってもそれなりに普通に過ごしてきましたから大丈夫ですよ」 「そうなんだ……じゃあ誠……君? ちゃん? とは家族同然なんだね」 「ですね、ずっと一緒でしたから」 「この前急に帰って失礼な態度とっちゃったから今度会えたらお詫びしないとな……」 「気にしなくていいですよ、それにこれからは真紀がずっと一緒にいてくれるんですよね?」  ジッと見つめる松田くんの目が私を捉えて目を逸らす事が出来ない。急に真剣な空気が張り詰める。タイミングが良いのか悪いのか、DVDも終わってしまい一気に部屋が静かになる。  「もちろん」たったこの一言が素直に口から出てこない。心の中では思っているのに、勿論ずっと一緒だよ、そう思っているのに恥ずかしいと思う気持ちが未だに勝ってしまい言い出せない。 「っつ……」 「DVD終わっちゃったし、次の見ましょっか!」  その場の空気を振り払うように松田くんが明るく次のDVDをプレイヤーに入れる。 「無理しなくていいからね?」  松田くんはゆっくり私の頭を撫でてくれ、それがとても気持ちが良くて自分から彼の肩に頭を乗せた。  次こそ素直になろう、そう思った。 「え!? 何これ!!!」  テレビ画面に映される暗い病院。絶対に借りてきた恋愛映画じゃ無い事に気づく。 「だから無理しなくていいからねって言ったのに」 「なっ!!! そーゆうことだったのね! 騙された!!!」  さっきの雰囲気とは真逆で、あははは、と松田の笑い声と私のギャーと言う悲鳴が交わり部屋に響き渡る。  怖すぎて直視する事が出来ず松田くんの腕を必死に掴み目を瞑った。それでも耳から入ってくる音が怖すぎて途中からは何も考えずに無になった。 「大丈夫だった?」  ホラー映画なのに笑いすぎて目尻に涙を溜めている松田が私を宥めるように頭を撫でる。 「大丈夫な訳ないでしょ!!! 夜絶対トイレ行けないじゃない……」 「一緒に行ってあげますよ」 「あ、当たり前でしょ!」  急に後ろからガバッと抱きしめられ、松田の身体にすっぽり包まれた。私の首元に顔を埋める松田の息がくすぐったい。お酒を飲んでいるからか少し息も熱い。 「真紀」  松田の声にドキンと心臓が強く反応する。 「な、何?」  顔を捻り後ろを向くとスルリと松田の大きくてスッと長い指が私の頬を包み込み、引き寄せられるように唇を重ねた。  最初は軽く唇を重ねるだけのキス、チロチロと唇を舐められ、軽く唇を開くとすかさず松田の熱い舌が入ってきて私の舌を追いかけ回す。 「ふっ……ンっ……」  唇の隙間から無意識に甘い声が漏れてしまう。  ゆっくりと離れていく松田とバチッと目が合った。その瞳は熱を帯びていて経験のほとんどない私でも分かるくらいに欲情している眼だった。 「真紀……来て」  手を引かれ無言で松田の後をついて行く。言葉に出さなくてもきっとそれが松田の欲情に対しての返事だと受け止めてもらえただろうか。  これから松田と身体を重ねると思うと緊張からか手汗がぶあっと出てきて全身の血液が燃えるように流れているかと思うくらい身体がクラクラに火照る。 (つ、ついにこの時が来てしまったのね……)
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