ーーーーーーーーーー松田side

1/1
前へ
/52ページ
次へ

ーーーーーーーーーー松田side

「誠、頼むから今日は帰ってくれよ」  そう懇願しても誠には響かない。  誠は昔からそうだ。一度決めた事は決して曲げない。  急に女の格好してきた時だってそうだった。 どうしたんだ? と聞いても理由は言わずに「私がこの格好をしたいと思ったからしているの!」の一点張りだった。まぁ今の時代男が女の格好していようが、女が男の格好をしていようが不思議な事ではないので、特に偏見のない俺はすんなりと受け入れた。 「ったく……言ったって帰るわけないよな」  本当だったら彼女と一緒にお風呂に入ってイチャイチャして、彼女の甘い声をお風呂場に響かせる予定だったのに……  悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。 「ねぇ大雅、あの人といつ別れるの?」 「は? お前俺がどれだけ彼女の事好きだったか知ってるだろ? 一生手放す気はないよ」 「そっか……」 「お前どうしたの? なんか変だぞ?」 「別に! 何でもないよ! 湯船浸かりたいから早く出てよ」  誠に急かされ湯船を出て身体を洗う。 「ねぇ、大雅はどうしてそんなにあの人の事が好きなわけ?」 「そんな今更な事、でもやっぱり八年経ってやっと会えて更に好きになったよ、強がりな所も可愛いし、意地っ張りな所も可愛いし、でも顔に出やすくて凄く素直で一生懸命で、てか全部可愛いな」 「あっそ」 「ったくお前から聞いておいてあっそはないだろ」  だって本当に全部可愛いのだなら仕方ない。  思い出しただけでブルっと全身が震える。特に俺に抱かれている時の彼女は史上最強に可愛くて、綺麗だった。  顔を真っ赤にして恥じらっていたが段々俺の手によってトロトロにとかされ、俺を受け入れ、求めてくれた事がなりより嬉しかった。  そして喜ばしい事に彼女の口からセカンドバージンと言われた時は「優しくする」とか言いながら内心踊り狂いたいくらい嬉しくてテンションが上がっていた。  俺色に染めてやる――と強く思った。 (あーやば、思い出しただけなのに、ムラムラするわ) 「もう俺洗い終わったから先に出るな」  誠を残し素早く身体を拭き寝巻きに着替えてリビングに向かうとソファーで頭をカクンカクンとうたた寝をしている彼女が目に入る。あぁ、本当に可愛いが止まらない。 「真紀、お風呂に入ってから寝た方がいいですよ」 「んあっ、ごめんっ、また寝ちゃってた」  ヨダレが垂れてないか確認したのかな? 口元を拭ってホッとした表情を見せる。別にヨダレが垂れてようがオナラをブッとしようが全く構わない。むしろそんな彼女も可愛いと思ってしまう俺は多分重症だ。 「もう少しで誠が出ますから、もし気になるようだったらお湯変えますから」 「えっ! 勿体無いからいいよ! 大丈夫!」  でもやっぱり俺以外の男が入った湯船に彼女が浸かるのが嫌で誠が出てすぐにお湯を抜き入れ直した。彼女は「別にいいのに……」と言っていたが俺が嫌だ。  彼女が出てくるまでは誠とテレビを見ながらゴロゴロしていた。いつも誠が泊まる時も特に何かするわけではなくテレビを見て、スマホをいじって眠るだけだ。 「お風呂ありがとうございました」  湯上がりの彼女は少し頬がピンク色に染まり、まだ乾ききれていない綺麗な黒髪が妙に色っぽい。ちょっと恥じらっている姿が堪らないし、なにしろパジャマが可愛すぎる! 想像していた物は暗い色の普通のパジャマかな?と思っていたのに想像と全く真逆の水色のフワフワ生地のワンピースパジャマって……そりゃ反則じゃないですか? 今すぐ抱きしめたい! むしろ抱きたい! 「なぁ、誠……やっぱりお前帰らない?」 「……帰らないよ」  だよな……と落胆。  さすがに三人同じ部屋に眠るのは俺自身がかなり嫌だったので誠が普段使っている布団をリビングに敷いて寝てもらう事にした。嫌だ! と誠は散々駄々をこねていたがそんな物は知らない。嫌がる誠を横目に淡々と布団を敷いた。 「じゃあ俺らは寝るから、おやすみ」 「ま、誠さん、お、おやすみなさい」  なんだか後ろでぶつくさ誠が文句を言っていたようだがスルーした。  誠をリビングに残し彼女と寝室へ向かう。 彼女の表情を見てすぐに分かる、多分少し警戒している。誠もいるし、今日は既にもう二回彼女を抱いたので体力的にも彼女にはきついだろうと思い今夜はぐっと我慢することに決めた。  (誠が居なかったらまた抱いてたかもな……)  ベットに先に入り、おいでと隣に彼女を引き寄せ抱きしめる。まだまだ緊張している様子の彼女の身体はカチカチに固まっており心臓がバクバクと脈打っている音がパジャマ越しでも感じ取れる。  小柄な彼女はギュッと俺の胸に顔を埋め、すっぽりと俺に包まれている。彼女の艶のある綺麗な黒髪からはふんわりと自分と同じシャンプーの匂いがして胸が高鳴り、綺麗な黒髪にチュッとキスをした。        衝突的に好きと言う言葉が口から漏れた。  ゆっくりと顔を上げた彼女の顔は耳まで真っ赤に染まっていてまるで熟れた林檎のように赤く艶めいていた。 「……私も」  全身がブワッと熱くなる。  彼女が素直に口にしてくれた事が嬉しくて涙が出そうになった。  嬉しい、好きだ、幸せ、愛してる。  唇が触れる程度のキスをした。  それ以上したら我慢が出来なくなりそうだったからだ。  抱きたい気持ちをグッと我慢し、俺は彼女の頭を優しくずっと撫で続けた。 「あ~なんで誠が来ちゃったんだろ、本当に気を遣わせちゃってすいません」 「気にしないで、二人は家族も同然なんだから」 「そうですね、本当ずっと一緒にいたからな……」 「……ちょっと羨ましいな」 「なんで?」 「だって……松田くんの事知り尽くしてるって感じで、松田くんも誠さんと話す時はなんだか気を許したかんじで、昔の松田くんのこと私も知りたいなって……あ~、ごめん! 重い女になってるよね! 忘れて!」   「凄い嬉しいです……これから少しずつお互いの事を沢山知っていきましょう。重くなんかないです、愛されてるって実感できて、むしろ軽いくらいですよ?」  ベットの上で抱き合いながら笑い合い、とても穏やかな時間が流れた。  なんだかんだでくだらない話ばかりしていたら、スースーと小さくて可愛い寝息が聞こえてきた。 「真紀? 寝ちゃったね、おやすみなさい」  寝ている彼女の頬にキスをし、眠くなるまでジッと彼女の寝顔を眺めた。  俺の歓迎会の日に彼女が酔っ払って朝まで一緒に寝れるラッキーハプニングがあったがその時とはまた全然違う。  今夜初めて彼女の肌の温もりを感じながら朝を迎える。
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!

571人が本棚に入れています
本棚に追加